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更新日:2012年6月20日

蟻無山(赤穂市有年)

山陽本線有年駅〈うねえき〉の西北一キロメートルほどのところに、高さ七十メートルぐらいのまるい山があります。むかしから、この山には、蟻〈あり〉が一匹もいないということから、地元の人たちは「蟻無山〈ありなしやま〉」とよんできました。今から二百年ほどまえにできた「播磨鑑〈はりまかがみ〉」という本にも「其辺〈そのあたり〉に蟻なし山と云有〈いうのあり〉。一山に蟻なし。其山〈そのやま〉の土を取〈とり〉て異地〈いきょう〉に入り〈いり〉ても蟻不生〈いきず〉。実に〈じつに〉奇也〈きなり〉。」と書いてあります。

この山に登ってみると、頂上は平たく、高さ五メートル直径一八メートルの円墳〈えんぷん〉であることがわかりました。古墳〈こふん〉は、二つの壇〈だん〉からできており、前の方には造出し〈つくりだし〉という祭壇〈さいだん〉もつくられています。また、たくさんのまるい葺石〈ふきいし〉が一面に敷かれて〈しかれて〉おり、その葺石の間には埴輪〈はにわ〉がならんでいて、とてもりっぱな古墳です。

古墳のこのような形をみて、これを城あとと思った昔の人たちは、この山に蟻が一匹もいないことについて、次のような話を残してくれました。
この山に城をつくる工事がはじまったのは、暑い夏の最中〈さいちゅう〉でした。大ぜいの百姓たちが、むりやりに、人夫にかりたてられて働かされました。年よりたちは、山にのぼって、木を切ったり、土をならす仕事をさせられ、若い元気なものは、この山の裾〈すそ〉を流れている千種川の川原石〈かわらいし〉をあつめ、それを背負い、急な山坂をのぼって、山頂へはこぶ仕事をあてがわれました。

重い石をできるだけたくさん背負わされて、あえぎあえぎ山坂をのぼる若者のすがたが、くる日もくる日もつづきました。誰れもかれも汗まみれです。重い石を背負った縄〈なわ〉が肩にくいこんで、痛ましい〈いたましい〉ことでした。山坂の途中ところどころには、百姓たちの働きを見張っている武士〈さむらい〉が目を光らせているのです。まったく、息をつくひまもありませんでした。

このとき、重い石の荷を背負って、はうように前かがみになって、山坂を登ってきた一人の若者が、足を出そうとしたところに、蟻が巣〈す〉をいとなんでいるのが目にはいりました。たくさんの蟻が出たりはいったりして、巣づくりに一生けんめい働いていました。足をおろせばたちまち蟻の巣はふみつぶされて、たくさんの蟻が死んでしまいます。若者は「これはふんではならぬ。ふんだら蟻が死んでしまう。」と、とっさに、足をすくめて、蟻の巣を避けて〈さけて〉足をおろそうとしました。

しかし、あまりにも急いだのと、重い石を背負っていたのとが重なって、若者の体勢がくずれて、こらえられなくなり、どっと尻もちをつき、あおむけに倒れてしまいました。背負っていた石の重みが、若者のからだをうしろへ引っぱって、どうしても立てません。なんとかして立ちあがろうともがいている若者のすがたを見張りの武士〈さむらい〉が見つけました。武士は大急ぎで駆けて〈かけて〉きて、大声で、「この横着者〈おうちゃくもの〉めが、早よう立たんかい。」と、どなりつけました。若者も一生けんめいもがいていますが、どうしても立ち上れません。武士は、いよいよ腹を立てて、「横着者はこれでも喰え〈くらえ〉!」といって、手に持っていた竹の鞭〈むち〉を振り上げて、若者のからだをめったうちに叩き〈たたき〉ました。たちまち皮膚〈かわ〉が破れて、血がふき出してきました。若者はみじろぎもしないで、じっと歯をくいしばってこらえています。鞭の雨がさらにはげしくなりました。

どうなることかと、このありさまを見つめていた蟻の群〈むれ〉は、相寄ってなにか相談をはじめましたが、「命の恩人の難儀〈なんぎ〉をほっておくわけはあるまい。」といって、みんなで、鞭を振り上げている武士のからだにはいあがり、手といわず、足といわず、体じゅうにかみつきました。武士は体じゅうがちくちくするので、ふと、体を見ますと、体が黒くなるほど蟻がのぼってきて、かんでいるではありませんか。さすがの悪武士〈わるざむらい〉も、これはたまらぬと、鞭を捨てて逃げていきました。

若者は、やっと助かりました。それが蟻のおかげと分ると、蟻の群に厚く礼をいいました。蟻たちは、「この村の人たちは、このようにやさしい人ばかりだ。このうえ、自分たちがこの山にいては、このようなむごいことが、二度、三度と起るにちがいない。それでは、自分たちの命を助けてくれた村の人たちにたいして相すまぬことになる。城ができあがるまで、みんな、よその山へ移ろうじゃないか。」といい合せて、山じゅうの蟻がのこらずこの山から去っていきました。
まもなく城はできあがり、工事は終りましたが、蟻は一匹も帰ってきませんでした。

いつ登ってみても、一匹の蟻もいないので、地元の人たちはこの山を「蟻無山」と呼ぶようになったということです。

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