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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』西播編 > 節句のたんぼすき(赤穂市有年)

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更新日:2012年6月20日

節句のたんぼすき(赤穂市有年)

どこの村にも一人ぐらいは、いるものです。
村の人たちが、山へ行こうとさそうと、「いや、おらあ、きようはたんぼ〈・・・〉へ行く。」といい、みんなが「さあ、もうひと働きしよう。」といって立ちあがると、「いや、おらあ、もう一服〈いっぷく〉だ。」といって、なかなか腰をあげません。
この村にも、こんな若者が一人おりました。村の人たちは、この男のことを「天邪鬼〈あまのじゃく〉」とよんでいました。

そのころは、世の中ものんびりしていました。盆〈ぼん〉、正月、祭のほかに、年に五回も節句〈せっく〉という日があって、その日は、村中の人が仕事を休んで宴会〈さかもり〉をしたりごちそうを食べたりねころんだりして、のんびり一日を過す〈すごす〉ならわしでした。わけても、五月の節句は牛の節句といって、どの家でも牛の角〈つの〉に菖蒲〈しょうぶ〉の根を結えて〈ゆわえて〉走らせたり、川へ入れて竹の箒〈ほうき〉できれいに洗ってやることになっていました。
その牛の節句の日でした。近所の人が、牛をつれて若者の家へやってきて、いっしょに川へ行こうとさそいました。若者は、牛の角に菖蒲もつけていないばかりか、
背中に鞍〈くら〉を置いて紐〈ひも〉をしめているところでした。
「これはなんということだ。節句というのに、たんぼすきでもあるまい。はよう鞍〈くら〉をはずして、菖蒲〈しょうぶ〉の根をつけて川へ連れて行こう。」
と、いいました。若者は
「いや、おらは、きょうはたんぼすきにいくことに決めたんだ。ほっといてくれ。」
といってききません。すき〈・・〉をかついで牛の綱をにぎって、たんぼの方へいってしまいました。
たんぼについた若者は、すぐさま、すき〈・・〉を牛にひかせて田を耕し〈たがやし〉はじめました。すると、どうしたことでしよう。そのたんぼからにわかに水が湧き〈わき〉出て、みるみるうちに深い泥田になってしまいました。人間も、牛も、すき〈・・〉もみんな泥の中にずりこんでいきます。おどろいた若者は大声をあげて助けをよびましたが、みんな仕事を休んでいて、あたりのたんぼには誰もおりません。必死にもがいてやっと若者だけは畦〈あぜ〉のところまでたどりつきましたが、牛とすき〈・・〉とは、とうとう泥の中にずりこんでしまいました。
牛とすき〈・・〉をのんでしまったこのたんぼは、それから何年たってももとの田にはもどりませんでした。
泥が深くて、人も牛もよせつけません。もちろん田植もできません。荒れるがままに放ってありました。わけを知らぬ人たちは、美しい青田のなかに一枚、草ぼうぼうのこの荒田を見て、もったいないことをするものだと思いました。

近ごろ、この荒田を中心に、附近の田を埋め立てて広い宅地がつくられ、五十戸あまりに家が建てられました。田を埋めて〈うめて〉生れた町だからといって「生田町」という名がつけられました。

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