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更新日:2013年1月14日
じいさんがある日、ばあさんに相談していうには、
「背戸〈せど〉の柿の木、近ごろちょっともならんようになったじゃないか。大きな木じゃでひどう蔭〈かげ〉にはなるし、柿の葉がぎょうさん落ちるし、ほんにじゃまになるだけのもんじゃ、いっそ切ってしもてやろうか。」
それでばあさんがいうことには、
「そりゃそうじゃけど、いったん切ってしもたら、あのような大けな木は、なかなかよういにできゃすまいがな。なんとか切らずにあのままで、柿をならせる方法はないもんじゃろうか。」
「おお、そうじゃ。誰やらの話には、あんまりならにゃ切ってしまうぞ、とおどかしてやったら、またなりだしたということじゃった。ばあさんよ、あの木もひとつおどかしてみてやろうじゃないか。」
「おどかすちゅて、いったいどがいすんじゃいな。」
「それがなー、わしが斧〈おの〉をさげて行って、一つ二つ木の根もとへ打ち込みかけるんじゃ。その時お前がとんできて、『せっかく長いことかかって、大きうなった柿の木じゃ、来年からかならずなるで、切ることだけは勘弁〈かんべん〉してやっておくれ。』と命乞〈いのちご〉いするんじゃ。」
「そりゃ、ええ考えだろぞい。」
ということで、その手はずを打ち合せました。
いよいよあくる日、じいさんは斧をさげてきて、柿の木の根もとへ一つ打ちこみました。
その時ばあさんは予定どおりとんではきましたが、笑うばかりで何もいわない。
じいさんは、ばあさんが、何かいってくれるものと、目くばせしてますが、やはりものをいいません。
たまりかねて、
「おい、なんどいえやい。」
と催促〈さいそく〉しました。ばあさんはたまりかねて、いっそうぎょうさんに笑いこけていうことには、
「じいさん、わしゃ、どうにもこうにもおかしゅうて、おかしゅうてならんのじゃわいな。」
それで、その柿の木は、やっぱり翌年もなりませんでした。
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