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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』西播編 > 糸〈いと〉の井〈い〉(太子町)

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更新日:2013年1月14日

糸〈いと〉の井〈い〉(太子町)

いろいろの木の葉 流るる糸の井は
ゆききの人の しるしとぞ聞く

ここ太子町、糸井山の北ふもとに、縦横〈たてよこ〉二メートルばかりの泉〈いずみ〉があります。
あまり深くはありませんが、きよらかなことこの上なく、今までに水がきれたことがありません。
「播磨艦〈はりまかがみ〉」という書物に、「朝日山、顕実上人〈げんじしょうにん〉、現水〈うつつみず〉」と伝えています。

その近くに、朝日山寺が建てられたころ、この村に、一人の信仰〈しんこう〉深いおばあさんが住んでいました。
「ありがたいことじゃ。」
「お近くに仏〈ほとけ〉さまを拝〈おが〉ませてもらえる。」
と喜んだのも無理がありません。このおばあさんのおてつぎ寺〈でら〉は、飾磨〈しかま〉(姫路市)阿成〈あなせ〉村の松林寺〈しょうりんじ〉で、その門徒〈もんと〉でありました。
年老〈お〉いて、不自由な足を、遠く離〈はな〉れた寺まで運〈はこ〉ぶのは、大へんな苦労であります。
「松林寺の門徒をやめさせてくだされ。」
ある日、こう頼〈たの〉んで帰りました。
「やれやれ、なんまんだぶつ!」
寝床〈ねどこ〉に横になったところ、うつらうつら眠〈ねむ〉ったかと思う間〈ま〉もなく、はっと目がさめました。ぐっしょりと汗〈あせ〉が額〈ひたい〉をぬらしています。
「あーあ。」
ため息〈いき〉をもらし、そのうち、またうとうと夢枕〈ゆめまくら〉。なにかの影〈かげ〉が浮んだようで消〈き〉え去〈さ〉ります。声もない。汗は前にも増して背〈せ〉中までびっしょり。
「ごごーつ」
大きな地響〈ぢひび〉きをたてて、朝日山がおばあさんの家へ崩〈くず〉れ落ちました。はっと目を開き、思わず念仏〈ねんぶつ〉。
「南無阿弥陀仏〈なむあみだぶつ〉」
すると、不思議〈ふしぎ〉や、汗がすーっと引き、目にちらついていた姿も消えました。
「仏〈ほとけ〉さまじゃ。」
「あらもったいなや。」
自分のお寺を捨〈す〉てたことをわびました。先祖以来〈せんぞいらい〉の門徒を自分勝手〈かって〉にかえたことを済〈す〉まなく思い、
「こうしては、おれぬわ。」
と、つぶやき、夜の明〈あ〉けぬうちにと阿成の寺まで急ぎ、前にいったことばを取り消しました。

今、糸井という村に、このおばあさんの子孫にあたる人たちが三十戸〈こ〉ばかり、松林寺門徒としてあります。
「さてもありがた仏の慈悲〈じひ〉よ。」
と、みんなすこやかに感謝〈かんしゃ〉の生活をしておられるとかいうことです。

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