わらすべ長者〈ちょうじゃ〉(千種町)
むかし、仕合わせが悪るうて、「これじゃぁどもならん。どこぞぇ(どこかへ)いて一旗あげよう。」そぎゃぇ思って旅ぃ出て、寺でうつうつしよって夢ぇ見たんじゃ。
「お前はそのぅこれから仕合わせぇになるで、これから手の中ぇ入ったもんを大事ぃせ。」
って。それで、そっから出て歩きかけたら、つい転〈ころ〉んで、起き上ってみたら手の中ぇわらすべぇ(いねのわら)握〈にぎ〉っとった。
それからそのわらすべぇ持って歩いとったら、あぶぅが食いついた。
そのあぶぅ取って、けつ(お尻り)ぃわらすべぇつけてブイブイいわせて歩いとった。
そしたら、お大家の奥さんが、子どもぅ連れて通りよって、その子どもが「あれほしい。」いうて、それで、そのあぶぅやったら、そのう「みかんやる。」いう。
「いらん、いらん。」いうたが、「みかんやる。」いうてきかんので、みかんもろうて歩いとって、峠〈とうげ〉ぇ越しよったら、呉服屋のおかみさんが腹痛〈はらいた〉ぁ起してのどが乾〈かわ〉いたが水はなし、困っとった。
そこで、そのみかんやったら、その人は大阪の何とかいう木綿問屋〈もめんどんや〉のおかみさんで、木綿をくれた。そぇから、その反物〈たんもの〉持って行きよったら、道で馬が腹痛起して困っとる。そぇで、そ
の馬の腹ぁくくらにゃぁいけん。そぇでその反物ぅ出ぇてやって、馬の腹ぁ巻いてやったら、そしたらその馬ぁ助かった。
ところが、その馬ぁ参勤交代〈さんきんこうたい〉で江戸へ行かんならん荷物運ぶ馬だって、それで、「どうもしゃぁなぇ、わしらが戻るまでお前、番しとってくれ。」いわれて、そのえ(家)の番しとったが、いくら待っても戻ってこん。
そのえ(家)は畑も山もじょうさんある。そのえ(家)ぇもろうて住みついて、しやわせぇ暮したそうな。