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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』東播編 > 笛吹〈ふえふき〉の松(吉川町西奥)

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更新日:2013年1月7日

笛吹〈ふえふき〉の松(吉川町西奥)

なだらかな山あいのいな田に、しっとりと夜つゆがおりて、月の光が青く照らしています。林がつづく中にも、きわ立った古い松が大きな竜〈りゅう〉のように黒ぐろと見えます。どこからか、むせび泣くような、時にはうつたえるような笛の音〈ね〉が、古い松のあたりから、今夜も里の実家にひびいてくるのでした。

ここは吉川谷大畑庄〈よかわだにおばたのしょう〉西畑の里です。この村の庄屋〈しょうや〉では、やっと一週間ばかり前に都からつとめを終えて帰ってきた若者が、胸をしめつけられる思いでじっと笛の音を聞いておりました。
いくすじもなみだがほおをつたっています。若者は、それまで都の領主〈りょうしゅ〉さまの御殿〈ごてん〉につかえて雑用〈ざつよう〉をしているうち、御殿〈ごてん〉につかえる女の笛の主と知り合っていたのです。つとめが終って帰郷〈ききょう〉することになった若者と、つれ立ってこの草深い里にきたのでした。だが若者の両親は、
「とても都育ちの女が野ら仕事などできるものか、おまえはきっとだまされているのだ。」
と、家に入れてくれません。若者の外出もきびしく止めてしまいました。いく夜も続いた笛の音も、こよいはことに絶〈た〉え入〈い〉るばかり細ぼそと聞えていました。

つぎの日の朝、古い松の根元にいまは息絶えた乙女〈おとめ〉の姿がありました。一管〈ひとくだ〉の横笛〈よこぶえ〉をくちびるにあてたままです。これほどまでに思いつめたあわれな名もさだかでない都の乙女を、村人たちはその場にうめて、ささやかな石の墓じるしを立ててやりました。
この古い松も、第二次世界大戦でとうとう切り出され、なくなってしまいました。
笛吹の松はいま一つ、ここから五キロメートルほど西の三木市口吉川町西中にもあって、むかしその松のあたりに毎夜美しい乙女が笛を吹いていたが、村人にあやしまれて懐剣〈かいけん〉で自殺してしまった、といいつたえています。

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