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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』東播編 > 才〈さい〉の池(加西市西横田町)

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更新日:2012年12月17日

才〈さい〉の池(加西市西横田町)

加西市西横田町〈かさいしにしよこたちょう〉の北に才〈さい〉の池〈いけ〉という池があります。市内でもゆびおりの大きな池で、この池の名は地名「才〈さい〉の谷〈たに〉」から名づけたものです。昔から「雨乞池〈あまごいいけ〉」ともいわれております。この池は昔王子山〈おうじやま〉と天満山〈てんまやま〉の両方からおちこむ水がはけ口がなくて、自然に谷にたまり大きな深い淵〈ふち〉になっておりました。
人びとはここを「才〈さい〉の淵〈ふち〉」とよんで、竜〈りゅう〉がすむといっており、ひとつの伝説があります。才の谷のいっぽうの谷、王寺山〈おうじやま〉に延暦〈えんりゃく〉のころ建てられた大寺〈おおでら〉がありました。三十六も坊がある大霊場〈れいじょう〉であったといいます。

その寺があったころ、南の方の淵にひとつのつり橋を架〈か〉け、向かいの天満山〈てんまやま〉への交通の便〈びん〉にしておりましたが、あるとき、王子山〈おうじやま〉の寺から火が出ました。火はものすごく、たちまち全山をつつんでしまいました。火のまわりがあまり早かったので、逃げ場をうしなった者は多くは焼け死にました。
その時一人の尼〈あま〉さんが寺にいましたが、寺の宝としている黄金の半鐘〈はんしょう〉が焼きつくされるのをおしいと思い、猛火の中へ飛〈と〉び入ってその半鐘を背負〈せお〉い出しました。そして、天満〈てんま〉山の方へのがれようとして才〈さい〉の淵〈ふち〉の上の吊橋〈つりばし〉を渡りかけました。ちょうど尼さんが重い半鐘を背負って橋の中ほどまで走った時、すでに燃えさかった火が山風〈やまかぜ〉にあおられて橋にうつりました。
藤蔓〈ふじづる〉でつった橋だからひとたまりもありません。橋が焼け落ちるとともに尼さんも鐘〈かね〉を背負〈せお〉ったまま淵に落ちこみました。すると、淵にすんでいた竜がとつぜんあらわれ、その鐘を奪〈うば〉いました。尼さんはたちまち大きな鯉〈こい〉となり、水中〈すいちゅう〉で竜を追いまわしましたが力およばず、怨〈うら〉みを永久〈えいきゅう〉にのこしてとうとう死んでしまいました。
そのとき王子山〈おうじやま〉の荘厳華麗〈そうごんかれい〉をきわめた堂塔伽藍〈どうとうがらん〉は、あとかたもなく灰になってしまい、それきり再建されることはありませんでした。尼さんがせっかく持ち出した宝の半鐘〈はんしょう〉も、淵の底深く沈〈しず〉んだまま、ふたたびそれを見出すことはできませんでした。村人は黄金の半鐘を永遠〈えいえん〉に淵の主〈ぬし〉にあたえておくのをおしみましたが、底知れずといわれた深い大きな淵の水を干〈ほ〉すすべもなく、また、竜神〈りゅうじん〉のたたりを恐〈おそ〉れて、そのままに幾年もの間過〈す〉ぎ去〈さ〉りました。ある年のこと、夏の間長いこと雨が降らず、やくような日照りがつづきどこの川も池も、水がかれつきてしまいました。
何百年も昔から底を見たこともないという才〈さい〉の淵〈ふち〉も、その時ばかりは水がかれ、萎〈な〉えた藻〈も〉におおわれた底が、そこかしこにあらわれました。それをみた村人は黄金の鐘は底の泥の中に埋まっているにちがいない。掘り出すのは今だといって、鋤〈すき〉や鍬〈くわ〉を持っておおぜい集まり、竜神〈りゅうじん〉の怒〈いか〉りもおそれず池の底の泥〈どろ〉や藻〈も〉をほりかけました。
その時、一天にわかにかき曇〈くも〉り、雷鳴ははげしく天を震〈ふる〉わせ、稲妻〈いなづま〉は地を裂〈さ〉くようにものすごくはしり、山を崩〈くず〉すような大雨は強烈〈きょうれつ〉な風をさそって降〈ふ〉ってきました。泥をほっていた人びとは恐れおののきあわてうろたえ、こけつころびつしながら逃げ帰ってしまいました。
その後はまたたく間に水が満ち、ふたたびもとの青青〈あおあお〉とした深淵〈しんえん〉となりました。その時から誰いうとなく才〈さい〉の淵〈ふち〉の鐘を掘〈ほ〉るまねをすると、どのような大旱〈だいかん〉ばつにもかならず雨が降るといいだしました。その後寛永〈かんえい〉元年とかにどこも大旱害〈だいかんがい〉で、稲〈いね〉、畑作物〈はたさくもの〉はいうにおよばず、草も木も枯れ、人びともたおれるほどになりました。
そのとき近郷近在〈きんごうきんざい〉の者が大ぜい集まり「才〈さい〉の池〈いけ〉」の鐘を掘り出しにかかりました。
はたして大雨となり、どこも水があふれ出し、それから誰も「雨乞池」というようになりました。

いまでも旱害〈かんがい〉のときは、この池の鐘掘りをすればかならず雨が降るとつたえています。そして不思議〈ふしぎ〉なことは、この池にすむ鯉の中にはたまに一眼〈いちがん〉のものがあり、それは鯉になった尼さんが生前〈せいぜん〉一眼をうしなっていたからだとつたえられています。

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