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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』東播編 > 黒い阿弥陀〈あみだ〉さま(社町久米)

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更新日:2012年9月24日

黒い阿弥陀〈あみだ〉さま(社町久米)

むかしむかし、ある夏の夜のことです。久米〈くめ〉村の喜兵衛〈きへえ〉じいさんはふと目をさましました。
「はてな、だれかがわしをよんだようやが…。」
耳をすませましたが、それきり何も聞えません。
「なんや、わしのそら耳やったのか。」
じいさんはかってに風の音ときめこんで、また眠りはじめました。ウトウトしていると、またこえがしました。こんどははっきりと聞きとれました。
「喜兵衛、舟坂〈ふなさか〉へおかえし申せ。」
といったようです。ガバとはねおきてとなりの部屋を開けてみましたが、だれもいません。あかりをつけて押入れから縁〈えん〉がわの下までしらべてみましたが、何も見つかりません。残るところはぶつだんだけです。
「ぶつだんはと…、あっ、そうか。あの阿弥陀〈あみだ〉さんや。」
じいさんは思わず「なんまいだ、なんまいだ。」と念仏〈ねんぶつ〉をとなえて、すわりこんでしまいました。

数日まえのことでした。稲田〈いなだ〉の見まわりに出かけた喜兵衛〈きへえ〉じいさんが、山のそばの小さな池まできますと、水面に黒いものが浮かんでいます。近づいて見たら、それは仏〈ほとけ〉さまでした。じいさんはあわてて拾いあげ、きれいにふいてあげました。身長が約四十センチメートルほどのまっ黒な阿弥陀さまです。
「もったいない。だれがこんなむちゃなことしたのやろ。」
それにしても、金属製〈きんぞくせい〉の仏像〈ぶつぞう〉が水に浮くとはふしぎなことです。だれかが寺からぬすんできたものの、しまつに困り池に投げこんだのでしょう。そして、阿弥陀〈あみだ〉さまは信心〈しんじん〉ぶかい善兵衛〈きへえ〉じいさんが通りかかったので、浮きあがったにちがいありません。どうしようもないまま、じいさんは家に持ちかえり、ぶつだんにおまつりしておいたのでした。

そのつぎの朝、じいさんは阿弥陀〈あみだ〉さまを舟坂〈ふなさか〉までお送りすることにきめました。しかし、舟坂がどこにあるのか、また、地名なのか寺の名であるのかさえもわかりません。ふと、池に浮かんでいた阿弥陀さまの指が、たつみ(東南)をさしていたのを思い出しました。仏像〈ぶつぞう〉をきれいなこもにつつんでせおい、じいさんはたつみの方へ歩いて行きました。行く先ざきの村で舟坂をたずねましたが、だれも知っていません。それでも、どんどん進んで行きました。

よく日の夕方、じいさんがある家にとまっていますと、ひとりの坊〈ぼう〉さんがやってきました。舟坂〈ふなさか〉村善然寺〈ぜんしょうじ〉の住職〈じゅうしょく〉と名のっているではありませんか。じいさんははだしでとび出しました。びっくりしている坊さんにいそいでたずねました。
「もしか、あなたのお寺の阿弥陀さまがぬすまれたのではありませんか。」
「そうです。すると、あなたが…。」
「やれ、ありがたいこっちゃ。なんまいだ、なんまいだ。」
じいさんは念仏〈ねんぶつ〉をとなえながら、はじめからおわりまでの話をしました。坊さんがここへきたのもぐうぜんではなく、ゆうべ、夢の中に阿弥陀さまがあらわれて、すぐおむかえにくるようにいったのだそうです。坊さんの話によりますと、この阿弥陀さまは純金〈じゅんきん〉の仏像で、ぬすまれるのをふせぐためにまっ黒くぬっておいたということでした。
黒い阿弥陀さまは、今も有馬〈ありま〉の舟坂山善照寺〈ふなさかさんぜんしょうじ〉にまつられています。

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