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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』東播編 > 印南野〈いなみの〉の野猪〈のいのしし〉(加古川市平岡地方)

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更新日:2013年1月7日

印南野〈いなみの〉の野猪〈のいのしし〉(加古川市平岡地方)

むかし、西の国から、おそろしく脚〈あし〉の達者〈たっしゃ〉な人が都へのぼってきました。夜を日についで歩いてきたので、ちょうど、印南野〈いなみの〉の中ほどにさしかかったとき、日が暮れてしまいました。
「どこか、宿をしてくれるところはないかしら。」
あたりを見まわしましたが、そんなところは見あたりません。ただ、一軒だけ、山田を耕〈たがや〉しているらしい小さな農家が目につきました。
「今夜は、ここで夜をあかそう。」
この男は大刀〈たち〉を差〈さ〉し、心のたけだけしい人でしたから、こう思うと、ためらわずに家の中へ入っていきました。しかし、だれもいません。かまわず、一夜の宿をとることときめましたが、さすがに、着物も脱〈ぬ〉がず、また、眠らずにいました。

夜がだんだん更けますと、西の方で、鉦〈かね〉をたたき、念仏〈ねんぶつ〉をとなえる声がしました。男は、「あやしいぞ」と、その方に目を向けますと、多くの人がたいまつ・・・・をかざし、僧たちもまじって鉦をうち、念仏を唱えながらこちらへ向かってきます。よく見ると、野辺の送りです。この家の近くまでくると棺〈かん〉をおろし、鋤〈すき〉・鍬〈くわ〉などで土を掘り、棺を埋めたうえ、卒都婆〈そとうば〉を立てて帰りました。
「気持の悪いことに出あった。」
と思いながら墓の方を見ていますと、何か動いているようです。「はて」と、さらに目をすえ、よく見ますと、裸〈はだか〉の人が土の中から出てきました。肱〈ひじ〉や身体のあちらこちらが燃〈も〉えるのを吹きはらいながら、立ちあがると、こちらへ向いて走り出しました。男は、びっくりしました。暗いので、何物か、よくわかりませんが、身体はなかなか大きいようです。そのとき、ふと思い出したのは「葬送〈そうそう〉の場には鬼が出る」ということです。今、走ってくるのは、この鬼が、自分を食べようとしてくるのにちがいありません。
「家の中にいては危ない。入らぬさきに斬〈き〉り殺さねば。」
と太刀〈たち〉を抜いて家を出、鬼の方へ向かって走りざま、フッと斬りつけました。たしかに手ごたえがあって、どうと倒れる音がしました。しかし、男も、あまりの恐ろしさに、あとを見ず、いちもくさんに走って人家のあるところへたどりつきました。まだ、夜は明けていません。男は、しばらく門脇〈かどわき〉にかがまっていて夜の明けるのを待ち、村人たちに夜中のできごとを話しました。村の若者たちは、話を聞くと「見にゆこう。」というので、いっしょに、もとの場所へ引返しました。ところが、そこには、墓〈はか〉も卒都婆〈そとうば〉もなく、火の散ったあともありません。ただ、大きな野猪〈のいのしし〉が斬り殺されていました。

(『今昔物語集』)

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