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更新日:2012年6月1日

四人小僧(稲美町)

加古川市の東の端、加古郡稲美町とのさかいに、野村という村があります。

加古川流域の肥よく〈ひよく〉な平野からはずれた印南野の中でも、早くから開かれたところで、今では加古川市の一部になっていますが、むかしは、直径一メートルもある大木が、道の両がわにおい茂ったさびしい山の中の村でした。

昔、むかし、この村の近くに、四匹の古狸〈たぬき〉が住んでいました。深い山の中で、食べものにも困らなかった狸たちは退屈しきっていました。村には民家が四軒だけ。せめて、ときどき、村人にでも出会えば、狸たちも退屈しないのですが、たきぎをとる村人たちも、家のまわりの林だけで、じゅうぶん事たりるので、遠くまではいきませんでした。

はるか遠くの村に通じる一本の山道を、ときどき村人が通ります。四匹の古狸は、その村人たちを、ときどき、それぞれ、自分の得意の芸を使っておどかしては、退屈をまぎらわせていましたが、ある時、四匹が集まって相談しました。

「わしら一匹づつが、自分勝手に人間共をおどかしてみても、たいして面白う〈おもしろう〉ない。いっしょに笑ってくれる者がいると、もっと面白かろうぜ。」「そうだ、そうだ。一匹づつ、勝手にやると、中には、きものすわった奴〈やつ〉がいて、こっちが逃げ出すときもあるでよ。」「うん、この前、わしが化けて出たら、そのじじいの奴、ゆっくり木の根っ子にすわって、わしのだいきらいなきざみ煙草〈たばこ〉をすいやがった。おまけに、わしに向かって煙を吹きかけよる。あれにはかなわぬ。わしは、しっぽのみえるのもかまわず、茂みの中にとびこんだわい。」相談の結果、四匹でいっしょに化けて出ようということになりました。

当時の村人たちは、『キツネは美しいお嫁さんに化けて出る。タヌキは、たいてい、坊主に化ける。だから、こんな時は、こうするのだ』と、化かされた時の防ぎかたを、それぞれ知っていました。

ある夕暮れ、びくびくしながら、そのあたりを通りかかった村人は、突然、眼の前にずらっと並んだ四人の小坊主をみて、腰をぬかしました。今までに聞いたこともない化けものをみた村人は、知っていた防ぎかたをすべて忘れ、はいながら逃げ帰りました。話はすぐに広がって、村人たちはその化けものを、四人〈よつたり〉小僧とよんで恐れ、日が暮れかけるとその道を全く通らなくなりました。

その後、勇気のある若者が、何回かためしてみて、その度ごとに、青くなって逃げかえったといいます。村と村とのゆききがすっかりとだえた村人たちは、そこに小さいほこらを建て、日のあるうちに、季節季節の作物をまつって、その化けものをなぐさめました。狸たちは大喜びです。今までよりもはるかにおいしい物がくえるからです。

村人たちは子どもたちに、その恐ろしい話を伝えましたが、四匹の古狸も、自分たちの子どもに、おいしい食べ物を手に入れる方法を教え伝えていきましたので、つい最近までは、日が暮れると、だれもその道を通らなかったということです。大木は枯れ、山は切り開かれて、四人〈よつたり〉小僧の昔話を知る人も少なくなりましたが、今も小さいほこらだけが、雑木林の中に、ぽつりと残っています。

〔あとがき〕
「野村」は昔、四家族によって、はじめて開かれたということです。
やっと生活が安定しはじめたとき、彼らは山の中を切り開いて、小さいお宮を建てました。

そして雨の日など、四人の戸主〈こしゅ〉たちは、このお宮の床に集まって、日日の暮しを話し合い、時には夜おそくまでも、これからの村づくりについて相談しました。そんな四人が、ある夕暮れ、うちそろって帰る途中、恐る恐るその山道を通りかかった旅人に出会ったのです。その旅人がおそろしそうに語った話が、やがて「四人小僧〈よつたりこぞう〉」となって、いつまでもつたえられ、恐れられたのかもしれません。
「野野大神宮」という、高さ二メートルほどの小さい社〈やしろ〉が、舗装〈ほそう〉された道から、二、三メートル入った林の中にポツンと建っています。

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