• お問い合わせ
  • 文字サイズ・色合いの変更
  • サイトマップ
  • 携帯サイト

メニュー

ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』東播編 > 竜〈りゅう〉になった乙女(吉川町実楽)

ここから本文です。

更新日:2012年11月19日

竜〈りゅう〉になった乙女(吉川町実楽)

むかし、吉川庄実楽〈よかわしょうじつらく〉に富有〈ふゆう〉な地主がいました。
たった一人の娘お光さんは、黒髪〈くろかみ〉の長い美しい少女でした。それが、夏のさかりのひるねの間だけどこにいくのか姿が見えなくなってしまいます。たずねてもだまっているばかりです。気がついてみたら二、三年も前からです。

ある夜、母親がお光さんのへやをのぞくと、背中やわき腹に鯉〈こい〉のようなうろこがついています。びっくりして問〈と〉いただすと、
「こんなからだになって、人に見られるのもはずかしくだまっていましたが、こうなった以上家にもおられません。永い間のご恩〈おん〉もおかえしせず、もうしわけありませんが、どうか行く先は聞かずにください。」
と、さめざめと泣きふすお光さんを囲んで、両親もしあんにくれてしまいました。その夜のやみにまぎれて出て行ったお光さんのうわさも、二、三年で村人の頭から消えかけたころ、摂津箕面〈せっつみのう〉の滝〈たき〉にいるのだと誰いうとなく聞えてきました。

母親はとるものも取りあえず、箕面の山にたずねていきました。白布を空からかけ広げたように落下する滝つぼに向かって声をかぎりに、
「お光ツ、お光ヨー。」
と、呼んでおりますと、水しぶきが霧〈きり〉となっている滝つぼの中に、家出した時と同じ着物、髪のかたちのお光さんがあらわれてきました。そして、
「いまは、竜神様〈りゅうじんさま〉からありがたいお教えをうけ、現世の苦悩〈くのう〉を解脱〈げだつ〉して天上界にのぼれる日も近づいております。このたびだけお許しをいただきましたが、もう二度ときてくださるな。これが最後でございます。」
と、いい終ると消えるように見えなくなってしまいました。必死〈ひっし〉に追いすがる母親の声だけが、滝の音にとぎれながらいつまでもあわれに聞えていました。
泣く泣く帰ってきた母親は、どうしてもあきらめきれません。また箕面の滝にたどりつきました。
「お光ヨー。実楽からきたんだヨー。」
と、呼びました。いくたび呼んでも、谷間にこだまするばかりでだれも答えてくれません。
とつぜん、いままで静寂〈せいじゃく〉だったみねが、台風でもきたようにゆれ動き滝もおこったように鳴り出しました。水しぶきがもうもうとあがる滝つぼの中に、大木の根がわだかまっているような大蛇〈じゃ〉が、ピカピカと二つの眼を光らせ、口からは真赤な舌〈した〉を火炎〈かえん〉のように出しながらにらんでいます。谷間の岩石もくずれ落ちるほどの勢いです。おそろしさに母親は魂〈たましい〉も宙〈ちゅう〉にころがるように山をおりました。
その後も吉川谷の人びとは箕面の滝にいっても、「実楽やー。」といえば大へんだ、滝が荒れるとおそれています。

お問い合わせ

情報管理部広報係

電話番号:078-331-9962

ファクス番号:078-331-8022