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更新日:2012年10月22日

雨をよぶ竜鱗〈りゅうりん〉―慶徳寺〈けいとくじ〉の伝説―(小野市河合中町)

ある年の夏、この河合〈かわい〉を中心とした一帯に大旱〈かん〉ばつがありました。数十日雨は降らず、川の水はもちろん、ため池もすっかり干〈ひ〉あがってしまいました。田は白くひび割れ、すでにあちこちのいねは枯れてしまったのです。百姓は毎日天を仰〈あお〉いで雨乞〈あまご〉いをしました。しかし、一滴〈いってき〉の雨もみることはできません。村のおもだった人は、いろいろと対策をねってみましたが、どうする思案〈しあん〉も浮かんできませんでした。その時、一人のお年よりが前にでていいました。
「むかしの話だから疑わしいが、わしのおやじから聞いたことがある。それはなんでも、ことしのような大旱ばつのあった年だったそうだ。慶徳寺〈けいとくじ〉の方丈〈ほうじょう〉さんに雨乞いをしていただいたところ、たちまち三日間ぶっつづけに雨が降ったそうだ。わしは、子ども心に不思議〈ふしぎ〉でならなかったが、一度、慶徳寺の方丈さんにお願いしてみては…。」
村のおもだった者数名はすぐ、お寺を訪れたのです。「吉祥亀鶴山福寿慶徳寺〈きっしょうきかくざんふくじゅけいとくじ〉」それは河合村のやや中央にあり、むかしから竜〈りゅう〉の鱗〈うろこ〉があるとか、古いいわれのあるお寺です。

今から約四百五十年前、このお寺のご開山であった春庭見芳禅師〈しゅんていげんぼうぜんじ〉は、天下の名僧〈めいそう〉として諸国〈しょこく〉に知られていました。この名僧〈めいそう〉をしたって修行僧〈しゅぎょうそう〉が百人あまりも、このお寺に安居〈あんごう〉(九十日間寺に泊まって修業すること)していたといいます。そのころのお寺は、いまの慶徳寺の西北に位置する寺山というところにあり、その近くの山中には、年中清水〈しみず〉がこんこんと湧〈わ〉いて、下の八〈はち〉が池〈いけ〉にそそぎこんでいました。月の四と九のつく日は、禅師〈ぜんじ〉のお説教があるので、大ぜいの人びとがおまいりにきました。その中に、いつのころからかひとりのおばあさんが、後ろの片隅〈かたすみ〉で熱心に禅師〈ぜんじ〉のお話を聞くようになっていました。

ある日のこと、おばあさんが弟子〈でし〉に、
「ぜひとも禅師〈ぜんじ〉にお目にかからせてください。」
と申し出ました。方丈〈ほうじょう〉の間〈ま〉にとおされたおばあさんは、禅師〈ぜんじ〉の前に頭を下げ、静かに身の上を語りはじめました。
「じつは、私は人間ではありません。この寺の下で、清水の湧いているあたりに住む大蛇〈だいじゃ〉の化身〈けしん〉です。なんの因果〈いんが〉か、ながい間苦しみましたが、禅師〈ぜんじ〉のお話を欠〈か〉かさずにお聞きしましたところ、その功徳〈くどく〉によって、あす早朝〈そうちょう〉、人間に生まれ変わることができるようになりました。これもほんとうに、禅師〈ぜんじ〉のお陰〈かげ〉です。深くお礼を申しあげます。しかし、このように申しあげましても、禅師〈ぜんじ〉はお信じくださらないと思いますので、そのあかしとして、私のからだの鱗〈うろこ〉を差しあげます。」
おばあさんは、七枚の鱗〈うろこ〉をはがし禅師〈ぜんじ〉の前に出したかと思うと、静かに消えてしまったのです。
その後、これを竜鱗〈りゅうりん〉と名づけ、寺の宝としてたいせつにし保管されてきました。いつのころか、七枚あった鱗〈うろこ〉のうち二枚がぬすまれ、今は五枚しか残っていません。直径五センチメートルほどの大きさのものに、たしかに鱗が五枚ついており、ぬすまれた二枚のあとまではっきりと残されています。べっこうのようなこげ茶色で光沢〈こうたく〉(つや)はないが、その色あい形など見る者に不可思議〈ふかしぎ〉な感じをあたえます。そしてよほどのことのないかぎり、決して外部に持ちだしたり、人には見せないものとされていました。この龍鱗〈りゅうりん〉には、不思議な力があって、雨をよぶ龍鱗〈りゅうりん〉といわれ、いくども世の人を救ってきたのです。

村人の願いを聞いた方丈〈ほうじょう〉は、宝の龍鱗をいただいて、あの清水の湧〈わ〉く寺山〈てらやま〉にのぼりました。村の人たちも後ろに続いてのぼっていきました。龍鱗を前に読経〈どきょう〉が行なわれ、村人もいっ心にお祈りをしました。しばらくすると不思議なことが起こったのです。今まで雲ひとつなかった青空が急にまっ黒になり、かみなりとともにさあーっと風が吹いたかと思うと、大粒の雨がざあーっと降りだしたのです。みるみるうちに谷川の水はあふれ八が池は満水となりました。はるかかなたに見える田畑〈たはた〉は、白一色から黒ぐろとした土になりました。植物はいきいきとよみがえったのです。村人たちはお互いにだきあい、飛びあがり、ずぶぬれになりながらもそこを離れようとしませんでした。読経〈どきょう〉はつづけられました。その方丈〈ほうじょう〉の姿を見て村人たちはふたたびお祈りを唱〈とな〉えたのです。
雨は三日も続きました。さすがの旱〈かん〉ばつもすっかりうそのように、今は青青としたいねの波がゆれています。あの不思議な龍鱗について村の人たちは、つぎつぎに語りつたえていきました。

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