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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』神戸編 > 降〈くだ〉りが淵〈ふち〉の河童〈かっぱ〉(兵庫区淡河町)

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更新日:2013年2月11日

降〈くだ〉りが淵〈ふち〉の河童〈かっぱ〉(兵庫区淡河町)

それは遠い遠いむかしのことでありました。
あるところに、とってもよく働く百姓熱心なだんながいて、それはそれは、広い田んぼや畑がたくさんあるのに、明けても暮れても年がら年中、きのうは東の畑へ草刈りにいき、きょうは西の田へ行き、まい日のように田をたがやし続けていました。
やがて梅雨〈つゆ〉がきて、広い田んぼもすっかり植えつけが終り、若苗をわたってくる心地よい風が吹くころは、だんなはもう田の草取りにかかっていました。じゃぶんこ、じゃぶんこ。

一かぶは一合
二かぶは二合
三かぶで三合

だんなは、くる日もくる日も稲の根元をくまでで、じゃぶんこ、じゃぶん、とたがやしていきました。
一番草、二番草も早くすみ、三回目の草取りをするころは、気が遠くなるような土用の炎天〈えんてん〉。それでもだんなは、一かぶは一合、二かぶで二合と、お米の計算をくり返しながら草取りに夢中でした。
その時、だれかが田の畦〈あぜ〉から声をかけました。だんなは、やっと背をのばしてふりかえりました。
田の畦〈あぜ〉には、汗にまみれた小さな男が立っていました。おそらく「降〈くだ〉りが淵〈ふち〉」の急な坂を登ってきたのでしょう。子どものような背丈なのに、陽やけした顔はだいぶ年をとったような大人です。浅黒い押しつぶしたような顔に、口だけがつき出ています。
「何か用かのうー。」
だんなは手の泥をうちはらいながら、もどかしそうにききました。
「だんな、おら、旅のもんだが草取りを手つだうから、一晩泊〈と〉めてくれんかのう。」
「へえー。草取りができるんかい。そんならやってみい。」
だんなの声が終らぬうちに、もうその男は稲田の中へしゃがんで草取りをしていました。
なんと、その草取りの早いこと、まるで泳ぐようにだんなの前を遠ざかっていきます。あまり早いので、だんなはその男のあとをみましたが、草一本ものこっていません。
「なんと草取りの上手な男だろう。」
あまり早いのでついていけないだんなは、汗をぬぐいながらあきれはてて、ただぼうーと田の中につっ立っておりました。

夕暮れに家へかえるとその男は、風呂の水くみから庭そうじ、牛飼〈か〉いまで、あっというまにすましてしまいました。
「なあ、旅のものといったが、どこまでいかしゃんすだ。」
夕食後、だんながききました。
「どこというあて・・もないだよ。ただどこかに、よいだんながあれば奉公〈ほうこう〉したいんだよ。」
だんなは、なみなみとついだお茶をすすめながら、
「どうだ、うちにおってくれんかのう。銭〈ぜに〉はお前の仕事ぶりを見込んで、しっかりはりこむぜ。」
「たのみますだよ、だんなさま。私も気に入りました。せい一ぱい働きますだ。」
その翌日からは、その男は暗いうちからはね起き、夜暗くなるまで働きました。仕事がなくなると近所へ仕事をたのまれていきました。その仕事の上手で早いこと。村の人びとは、みなほめぬ人はありませんでした。

そして、二年だやら三年だやら暮れたころでした。村の人びとの口から、へんなうわさ・・・が流れました。
「なあー。あの下男はどうも人間じゃないぜ。きっと河童〈かっぱ〉の河太郎〈かわたろう〉だぜ。かわいそうにあのだんな、いつかは尻から生血をすわれて、あの下男に殺されてしまうよ。」
そんなうわさ・・・が回り回って、だんなの耳へ入りました。
「そういえばあの男、いくら暑くても肌〈はだ〉をぬがぬ。なぜか背中を見せぬ。きっと背中に甲羅〈こうら〉を背負っているんだろう。そうだ、それにちがいない。」
「そうだ。もし河童だったらおがら・・・(あさの皮をはぎとった茎〈くき〉)の箸〈はし〉で食べたら死ぬというではないか。一つためしてみよう。」
その夜は、家族中おがら・・・の箸で食事をすることになりました。
「だんなさま、この箸はおがら・・・じゃないですか。」
いぶかしげに見つめる下男へ、
「桐〈きり〉の箸だよ、かるいだろう。」
「桐ですかねえー。」
半信半疑〈はんしんはんぎ〉で食べおわった下男は、その翌朝かわいそうに冷たくなって死んでいました。
「たいへんなことをしてしまった。あんなに働いてくれた河童を殺すなんて、いくら悲しんでも死んだ河童はかえってこない。」
だんなは盛大な葬式〈そうしき〉をしてやり、「降りが淵」に石碑〈せきひ〉をたててねんごろにまつりました。
その後だんなの家は、代代お盆の日は家内中おがら・・・の箸で食事をし、河童の冥福を祈っているということです。

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