ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』神戸編 > 楠宮稲荷〈くすみやいなり〉のクスノキ(長田区)
ここから本文です。
更新日:2012年10月15日
長田神社の本殿の裏手に楠宮稲荷神社がまつってあり、その裏にクスノキの大木があります。このクスノキは神木として尊〈たっと〉ばれています。幹〈みき〉の周囲が約五メートル、高さは二十メートルを越し、樹令〈じゅれい〉七、八百年といわれています。このクスノキにはふしぎな話があります。
長田神社の宮司〈ぐうじ〉は、むかしから大中氏の一族がその役目〈やくめ〉をつとめていました。明治十八年に内務省〈ないむしょう〉から宮司が派遣〈はけん〉されるまで、大中氏はつづいていました。この大中氏の時代のころの話です。
兵庫の西出町のある人が、どうしてもこのクスノキがほしくて、神主さんにわけてくれるように頼みました。そして、神主とこのクスノキを売り買いする約束をしました。そして、いよいよあすは切り倒すというてはずになっていたその前夜のことです。宮司の枕もとに白い着物を着たなに者とも知れぬ姿があらわれ、
「クスノキを切るでない。クスノキを切れば、お前の一家にかならず不吉なことがおこるだろう。クスノキを切るなよ。」
といいました。宮司は驚いて、「たいへんな約束をしてしまった。きっと、長田大明神の怒りにふれたにちがいない。」と考えて、夜があけるのをまちかねてすぐに西出町へ出かけました。
西出町へついてその人にあいました。そして昨夜あったことをいちぶ始終はなしました。すると驚いたことに、この人もまったく同じことが昨夜あり、いまから長田神社へ約束のことわりにでかけようとしていたところだといいました。宮司とこの人とは、あまりにも恐ろしいこの話にすぐにクスノキのもとに出かけていき、クスノキに注連縄〈しめなわ〉をかけ、長田神社のご神木として尊ぶようにしました。
(『長田神社點描』)
お問い合わせ