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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』神戸編 > 四鬼〈しき〉の火〈ひ〉なわ(兵庫区有馬町)

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更新日:2012年12月10日

四鬼〈しき〉の火〈ひ〉なわ(兵庫区有馬町)

むかし、六甲山は、その南と北の人たちがたがいに往来〈おうらい〉する道となっていました。ことに、商売をする人にとっても、ひじょうに大事な道にもなっていたのです。御影〈みかげ〉や住吉〈すみよし〉の商人たちは、牛の背中に魚やお酒、小間物〈こまもの〉などをつんで六甲山をこえ、北がわの唐櫃〈からと〉の地に出ました。この唐櫃とは、いまの神戸電鉄の六甲登山口〈ろっこうとざんぐち〉駅付近の土地をいうのです。そうして、唐櫃から有馬やその付近の村村をまわって、それらの品物を売っていました。反対に、北がわの百姓さんたちも、やはり牛の背中に米や麦・薪〈たきぎ〉・味噌〈みそ〉などをつみ、唐櫃から六甲山をこえ南の御影や住吉に出て売っていたのです。こうしたことから、唐櫃の地は、両方から六甲越しでくる人や牛の休けいする場所になっていたのです。

ところが、この六甲山の往来は昼の間だけであって、夜になるとぜったいに行なわれませんでした。夜になると恐ろしい魔〈ま〉ものが出てきて、通る人や牛を食い殺すといわれていたからです。のっぴきならぬ用事で、夜〈よる〉こさなければならないときは、この唐櫃の四鬼〈しき〉という家から火なわをもらっていきました。この四鬼という家は、仏さまの道を修行〈しゅぎょう〉することをはじめた法道仙人〈ほうどうせんにん〉さまに仕えていた行者〈ぎょうじゃ〉さんの家で、この家でおまじないされた火なわには、どんな恐ろしい魔ものでも近よらなかったといわれていたからです。

その火なわには、こんな話も伝えられています。この唐櫃に、留吉という若者がいました。お父さんは早く亡くなって、お母さんと二人で暮していましたが、あるとき村の庄屋〈しょうや〉さんの急な使いで、手紙をもって昼から六甲山をこえて、大阪の役所に出かけました。ところが夜になってもかえってきません。心配したお母さんは、「もしや、山の中で魔ものにおそわれているのかもしれない。」と思って、すぐに四鬼の家へいって火なわをもらい、山をのぼっていきました。すると真黒な山の上から、「お母さん、お母さん。」とよぶ留吉のこえがします。よくみると、黒い二つも三つもの影が留吉をとりかこんで、「ウフフ、ウフフ。」と奇妙〈きみょう〉なこえをあげています。そして留吉は、一生けんめい棒きれをふりまわしながら、その近づいてくるのを防〈ふせ〉いでいました。これをみたお母さんは、
「留吉や、しっかりしておいで。お母さんは、四鬼さまから火なわをもらってきたから。」
と大ごえでいいながら、火なわをふりまわして留吉のそばへかけていきました。
すると黒い魔もののかげは「ウオー」と大ごえをあげて、ころびながら山の中へ逃げてしまいました。そこで親子はだきあって涙をながしながら、この火なわにお礼を申しあげたといわれています。

ところがまた、つぎのようなことも伝えられているのです。
それは、ある年の十一月のなかばのことでした。御影の乾物屋〈かんぶつや〉の番頭〈ばんとう〉さんで、仁兵衛〈にへえ〉という若者が、いつものとおり六甲山をこえて商〈あきない〉にやってきました。有馬や付近の村村をまわりましたが、その日は乾物がよく売れたので、かえるのがおそくなりました。そこで急いで唐櫃にいき、よく知っている茶店に入って御飯〈ごはん〉をたべ山へのぼろうとしました。これをみた茶店のお婆〈ばあ〉さんはあわてて、
「これ仁兵衛さんや、こんなおそくに六甲越しするのはおよし。恐ろしい魔ものが、夜になると山の上にでてくるというから。」
ととめました。すると仁兵衛は、腰にさしている刀を指さしながら、
「大丈夫〈だいじょうぶ〉、これがあるし、またわしは剣術〈けんじゅつ〉を知っているから。」
といって聞き入れません。そこでお婆さんは、
「それでは、せめて四鬼さんから火なわをもらって、それを持っておいき。」
といいました。すると仁兵衛は笑いながら、
「なんだ、そんなものがもてるか。」
といって、すたすたと坂道を登っていったのです。夜はとっぷりと暮れて、空には星が二つ、三つとかがやいていました。
ところがその翌日のことです。村の人が六甲山へ薪〈たきぎ〉をとりにいきますと、どうでしょう。ある岩かげに、その仁兵衛が血だらけになって死んでいました。しかも身体のあちらこちらは、ずたずたに裂〈さ〉かれていたのです。さあ、それから後、人びとは六甲越しをすることをこわがり、昼間〈ひるま〉でも四鬼さんから火なわをもらい、往来〈おうらい〉するようになったといわれています。

(『六甲』・『有馬郡の伝説とその背景』)

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