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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』神戸編 > 鎌倉谷〈かまくらだに〉(兵庫区道場町)

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更新日:2013年2月11日

鎌倉谷〈かまくらだに〉(兵庫区道場町)

道場町の東南に、生野〈いくの〉という所があります。今の国鉄福知山線〈ふくちやません〉の道場駅〈どうじょうえき〉の付近です。駅や家家のある所の裏がわには、武庫〈むこ〉川がながれています。その川下〈かわしも〉のほうへいきますと、六甲山から船坂〈ふなさか〉川が流れこんでいます。川は深い谷となっていて、緑〈みどり〉の木木が茂って美しい景色となっており、その崖〈がけ〉には、見上げるような高い岩がそびえていて、人びとはこの岩を、百丈岩〈ひゃくじょういわ〉とよんでいます。それはこの岩が、ひじょうに高く、また岩の上も広くて、畳〈たたみ〉が百枚しけるといわれていたからです。
ところがむかしは、武庫川がその下まで流れて、そこに水の渦〈うず〉まく大きな淵〈ふち〉となっていました。そうして一匹の河童〈かっぱ〉が住んでいたのです。ところがその河童は、なかなかの悪い奴〈やつ〉で、鶏〈にわとり〉や猫〈ねこ〉などをみると、淵のなかへ引きずりこんで、その血をすすって殺し、ときには牛や馬さえも引きずりこもうとしていたのです。だから村の人びとは、いつも、
「今にみとれ、ど河童〈かっぱ〉。頭の上の皿〈さら〉を、たたきめんだるわ。」
といって怒〈おこ〉っていました。それは河童の頭の上に皿がのっていて、いつも水がたまっており、その水がなくなるか、また皿がこわれると、河童が死ぬといわれていたからです。

ところがある日のことです。この武庫川の川べりで、女の子をつれたお母さんが洗濯〈せんたく〉をしていました。すると、とつぜん、川の中からその河童があらわれて、女の子の手をひき水のなかへ引きずりこもうとしました。驚いたお母さんは、女の子を力一ぱい引きながら、
「だれかきてー。河童が娘〈むすめ〉をさらおうとしているー。」
と大声でなんども叫びました。その声を聞いて大ぜいの人たちがかけつけ、河童に石をなげるやら棒〈ぼう〉でたたくなどしました。すると河童は、淵からするすると百丈岩にのぼり、下にいる大ぜいの人びとにむかい、「ここまでおいで。」といって、えへらえへらと笑いました。人びとは、ますます怒り、
「きょうこそは、あのど河童〈かっぱ〉をたたき殺してやる。」
といっていろいろ相談〈そうだん〉していました。そこへ、年とったお坊さんがとおりかかり、
「どうしたのか。」と尋ねました。人びとは、
「あの河童には、みんな苦しんでいます。それできょうは、ぜひ退治〈たいじ〉してやろうと相談しているところです。」
といって、今までのことを話しました。これを聞いたお坊さんは、
「よしよしわかった。悪い河童だ。それではわたしが二度と悪いことをしないようにしてやろう。」
といって、岩の上をあおぎ、数珠〈じゅず〉を手にはさんでお経をあげました。すると、どうでしょう。河童の頭の水がサッとちったかとおもうと、河童はまっさかさまになって、淵のなかにドブンと水けむりをたてて落ちました。そうして間もなく浮かびあがり、お坊さんの方をむいて手をあわせ、
「もう悪いことはいたしませんから、命〈いのち〉だけはお助けください。」
といいながら、涙をぽろぽろながしました。するとお坊さんは、
「それでは助けてやろう。これからは二度と悪いことをしてはならぬ。もししたならば、頭の上の皿がわれるであろう。」
といって、人びとに軽〈かる〉く頭を下げて歩きかけました。驚いた人びとは、すぐにそのあとを追いかけ、
「お坊さま、ありがとうございました。お名前をおうかがいしたく思います。どこへおゆきになりますか。」
とたずねました。するとお坊さんはにっこり笑って、
「いやいや名まえなどいうほどの者ではない。この先きの清寥院〈せいりょういん〉にいく者じゃ。」
といってすたすたと去っていきました。人びとは、すぐにそのあとを追って清寥院にいき、和尚さんにお坊さんのことを聞きました。すると和尚さんはきゅうに形をあらため、
「今きていらっしゃるお方は、もと鎌倉幕府〈かまくらばくふ〉の執権〈しっけん〉であった最明寺入道時頼〈さいみょうじにゅうどうときより〉さまだ。ただ今は鎌倉殿と申しあげているが、鎌倉殿は今、一人で国国をまわられ、人びとのようすをごらんになって、政治〈せいじ〉の悪いところをなおそうとなさってういれるのじゃ。」
といいました。これを聞いた人びとは大いに驚き、お坊さんのおられる居間〈いま〉の方をむいて手を合わせて拝〈おが〉みました。それから以後〈いご〉、あの河童は、ぜんぜん悪いことをしなくなりました。

村人たちは鎌倉殿に感謝〈かんしゃ〉して、この谷を鎌倉谷とよぶようになりました。今では鎌倉峡〈かまくらきょう〉とあらためられて、大ぜいの人がキャンプやハイキングにきてにぎわっています。

(『摂津名所図会』・『有馬郡記』・『有馬郡の伝説とその背景』)

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