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更新日:2012年10月15日

鹿の夢(兵庫区)

むかし、雄伴郡〈おとものごおり〉(いまの神戸市の湊川以西の地方)に夢野というところがありました。
そこは、はじめ刀我野〈とがの〉とよんでいて、ところどころにこんもりとした森もあり、草原が広がり、小川にはきれいな水が流れていました。いろいろな小鳥が遊び、きつね、野うさぎ、りすなどのかわいい動物たちが仲良く遊び暮らしていました。そのなかに一組の夫婦の鹿がおりました。このころは夫婦はいっしょには住まず、夫が妻の家を訪問〈ほうもん〉して翌朝帰っていく習慣でした。

ふとしたことから、牡鹿〈おじか〉は遠く海をわたった向こうの淡路の野島〈のじま〉に住む牝鹿〈めじか〉と仲良くなりました。そのため牡鹿は、夢野の牝鹿のことをすっかり忘れてしまったかのように、くる日もくる日も、野島の牝鹿のところへ遊びにいっていました。夢野の牝鹿はさびしくてなりません。

ある日、牡鹿が夢野の牝鹿のところへ、ひょっこりと訪ねてきました。一夜明けて、目ざめた牡鹿は、牝鹿にこんなことを話しだしました。
「じつはね、昨夜わたしは奇妙な夢を見たんだよ。一つは、私が眠っている間に、私の背中にこんもりと小山のように雪が積もっている夢なんだよ。もう一つは、私の背中一面にすすきが生え茂っている夢なんだ。これはいったい、何の知らせなんだろうね。これは良い夢なのか、それとも悪い夢なんだろうかね。」
牝鹿〈めじか〉は牡鹿〈おじか〉が自分のところへこないで、野島の恋人のところへいくのをねたましく思っていましたので、それをここでとめようとして、こう答えました。
「それはたいへん悪い夢ですよ。背中にすすきが生えるということは、猟師〈りょうし〉の矢がからだに立つことです。また、背中に雪が積もるということは、肉が塩づけにされるしらせです。あなたが野島へわたろうとされると、かならず猟師にであって海の上で射殺〈いころ〉されるでしょう。うっかりでかけてはいけません。どうか、ここにじっといて、どこへもいかないでください。」
牡鹿はもっともなことだと思って、しばらくは牝鹿のいうとおりに夢野にいましたが、どうしても、野島の牝鹿のことが忘れられません。
そして、とうとうあいたい気持ちを押えきれずに夢野をでて、野島へむかいました。そして海を泳ぎすすんで、もうすぐ淡路島へたどりつくという少し手前で、浅瀬の岩へあがって休んでいました。そこへ突然〈とつぜん〉、猟師が船にのってあらわれて、牡鹿を射殺〈いころ〉してしまいました。

それから、この野原を夢野とよび、「鹿の夢のしらせは、良いように思えば良くなり、悪いように思えば悪くなる。」と世のことわざにいわれるようになりました。

(『日本書紀』『摂津国風土記』)

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