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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』神戸編 > 虎に喰〈く〉いついた犬(兵庫区山田町)

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更新日:2013年1月21日

虎に喰〈く〉いついた犬(兵庫区山田町)

いまからおよそ三百八十年ほど前、豊臣秀吉〈とよとみひでよし〉は朝鮮に軍隊を出して、無謀〈むぼう〉な侵略戦争〈しんりゃくせんそう〉を起〈おこ〉しました。これはそれにまつわる話です。

朝鮮に出兵した武将のなかに、加藤清正〈かとうきよまさ〉という勇将がいました。この人は虎退治〈とらたいじ〉で有名な人ですが、このとき生捕〈いけど〉りにした虎を秀吉に献上〈けんじょう〉するために大坂(大阪)城へ運びました。大坂城では大きな檻〈おり〉をつくってこの虎を入れましたが、なにしろ大きな虎ですから、毎日毎日の食糧を用意するのにたいへんでした。そこで、近くの国の村里から犬を集めて虎の餌〈えさ〉にすることになりました。こうしてたくさんの犬が、毎日、虎の餌として大坂城に送られてきました。

ある日、いつものように送られてきた犬のなかに、白黒のぶち犬がいました。顔が長くて、眼が大きく、脚も太く、見るからにたくましい犬でした。この犬を虎の檻〈おり〉に入れますと、虎はこの犬のすさまじい形相〈ぎょうそう〉に押されて、一瞬〈いっしゅん〉たじろぎました。いつもなら、犬を入れると踊〈おど〉りあがって喜ぶ虎が、喜ぶどころか犬とにらみ合う形になったのです。
この珍しい状景〈じょうけい〉を人びとはどうなることかと見守っているうちに、虎が犬めがけて飛びかかりました。犬は体〈たい〉をかわしておいて、ねらいをすまして虎の咽笛〈のどぶえ〉にかみつきました。虎は犬を振り切ろうとして体をゆすり左足の爪で犬をかきむしりました。だが、犬は咽笛にくいついたままはなれませんでした。しばらくして、犬も虎もその場にどうと倒れ、ともに死んでしまいました。人びとはこのすさまじい光景にしばらくの間、声も出ないほどでした。

この話は人から人へ伝えられ、とうとう朝廷〈ちょうてい〉の耳にもはいりました。朝廷では、
「そんな勇しい犬はどこの犬だ。ぜひその犬の飼〈か〉い主を探し出せ。」
と仰せられ、さっそく、調べられました。
この犬の飼い主は、摂津〈せっつ〉の国丹生山田〈にうやまだ〉に住む夫婦づれの猟師〈りょうし〉でした。この犬は利口〈りこう〉もので、夫婦のいうことがよく聞きわけられ、二人の生活になくてはならない、家族同様のたいせつな犬でした。ところがある日、村の庄屋〈しょうや〉がたずねてきて、
「この村から大坂城の虎の餌にするため一匹の犬を出さねばならない。お前のところの犬は、良い犬だから差し出すように。もし差し出さないならば、お前ら夫婦を引っ立てて牢〈ろう〉に閉〈と〉じこめることになるだろう。」
といいました。猟師夫婦は泣いて庄屋に頼〈たの〉みました。
「どうかこの犬を出すことだけはおゆるしください。この犬をとられると私たちは生きていくことができません。こんな利口な犬を虎の餌にさせることはできません。どうかおゆるしください。」
庄屋はきびしい口調〈くちょう〉でいいました。
「ならぬ。この犬のように大きくて肉のよくついた犬が欲しいのだ。この犬のほかに差し出すような犬はいない。もし、どうしてもいやなら、お前らを虎の餌にしてやる。」
猟師夫婦は、どうしてもきき入れてもらえそうもないことがわかると、仕方〈しかた〉なく犬に申しました。
「お前はいったいどのような生れ合わせであろう。私たち夫婦は、きょうまでお前といっしょに働いてきた。お前は私たちのために、よくつくしてくれた。けれども、庄屋さんがお前を虎の餌に大坂城へ差し出せといってきた。私たちは泣いて頼んだがどうしてもきき入れてはくれぬ。これ以上、私たちが反対すると、私たち夫婦はもとより村びとにも難儀〈なんぎ〉がかかるかも知れない。お前をむざむざと虎の餌にさせるかと思えば口惜〈くちお〉しいけれど、いまの私たちにはどうすることもできない。かんにんしておくれ。こうなれば、どうかむざむざと虎にくわれることなく、虎の咽笛にくいついて、虎をくい殺しておくれ。」
犬はこの話を首をうなだれて聞いていました。そして、しおしおと庄屋につれられて村を出て行きました。大坂城についてからは、猟師夫婦のいいつけどおり、勇ましくたたかって最後をとげたのでした。

この話の一部始終〈いちぶしじゅう〉が朝廷にまできこえました。朝廷では、いかにも哀れな話であるとして、無理に引き立てた庄屋を罰し、その全財産〈ぜんざいさん〉を没収〈ぼっしゅう〉しました。そして、この財産を猟師夫婦にあたえ、犬のあとをねんごろにとむらうようにと仰せになったということです。

(『新著聞集』)

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