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更新日:2012年6月1日

六つの甲(東灘区・灘区)

今からおよそ千六百年ほど昔のことです。朝廷は三韓を征服しようとして、息長帯姫命〈おきながたらしひめのみこと〉(神功皇后〈じんぐうこうごう〉)をつかわしました。

 

命〈みこと〉は苦しい戦いの後、勝利をおさめて帰国の途につきましたが、その途中、九州の筑紫〈つくし〉の国でかわいらしい元気な男の子を生みました。命はこの皇子〈おうじ〉を大そうかわいがり、やがては次の代の帝〈みかど〉(天皇)の位につけようと考えました。ところがこの話を聞いた、香坂〈かごさか)王子と忍熊〈おしくま〉王子という二人の兄さんたちはおもしろくありません。とくに一ばん上の兄の香坂王子は、自分が帝の位につけなくなるので、生まれたばかりのこの皇子をいっそう憎く思い、弟の忍熊王子と相談しました。

「おい、忍熊王子よ。聞くところによるとこんど生まれた皇子が帝の位をつぐそうだが、そうなると、兄であるわれわれはどうなるのだ。こりゃあどうあっても、この弟の命令などにしたがうことはできないではないか。」
「いやまったく、兄上のいわれるとおりでございますな。」
「そこでどうじゃ、ひと思いに、皇子の帰りを待ち伏せして、やっつけてしまっては。」
「うむ、少し荒っぽいけれど、それもよろしゅうございましょう。そうすれば兄上が帝になれるわけでございますな。で、どのようにして。」
「わしにひとつ考えがある。亡くなられたおじいさんのお墓をつくるというたて前で、その石をはこぶ船のように見せかけた軍船〈いくさぶね〉を明石海峡に浮かべて、皇子の帰りの船をおそったらどうだろう。」
「なるほど、それは名案〈めいあん〉でございます。さっそく実行にうつしましょう。」

二人は準備をととのえ、多くの部下の乗った軍船を皇子の帰り道に待ち伏せさせて、一行がつくのを待っておりました。そのような日が数日すぎました。ふと思いついた香坂〈かごさか〉王子は、「待っている間がたいくつじゃ。ひとつどうだろう、こんどの計画がうまくいくかどうか、菟餓野〈とがぬ〉に行って狩でもして占ってみようではないか。」
「それはおもしろい。さっそく出かけましょう。」と忍熊〈おしくま〉王子は賛成〈さんせい〉しました。

菟餓野について、いよいよ狩のはじまりです。兄の香坂王子は、一本の大きなくぬぎの木に登って、獲物〈えもの〉をねらっていました。すると森の奥の方から体重が五十貫〈かん〉(約百九十キロ)もありそうな大猪〈おおいのしし〉がもうれつな勢いで走り出てきて、王子が登っていたくぬぎの大木に、ドスンとばかり大きな音をたててぶつかりました。怒った猪はこんどは何を思ったか、その大木の根元を掘り返しはじめて、とうとうその大木をたおしてしまったので、上に登っていた王子はふり落とされ、猪にくい殺されてしまいました。
これは悪い知らせにちがいありません。それでも弟の忍熊王子は、一人になってもはじめの計画を止めようとはしませんでした。

いっぽう、息長帯姫命〈おきながたらしひめのみこと〉は、国内のようすがおだやかでないのを知ると、皇子に万一のことがあってはいけないと思って一つの計略を考えつきました。

命〈みこと〉は多くの船団の中に一隻だけ喪船〈もぶね〉(死者の遺骸〈いがい〉を運ぶ船)をまじえて、そこに皇子を乗せて、“皇子は、生まれて間もなく病気のためになくなられた”といううわさを広めました。

それを聞いた忍熊王子は大そう喜びました。命の一行が明石海峡にさしかかったとき王子は、「それっ、皇子の遺骸遺骸〈いがい〉がつんである喪船を沈めてしまえ。」
とばかりに、だれも乗っていない喪船に攻撃をかけました。ところが意外なことにその中には多くの兵士が乗っていて、ゆだんしていた王子の軍勢はたちまち追い返されてしまいました。王子の軍はくわだてに失敗して、命からがら、やっとのことで山城〈やましろ〉の国(京都府)まで逃げのび、そこに陣〈じん〉どってなおも命に抵抗しました。

そこで命は兵士をさらに山城の国に送り、忍熊王子の軍と戦ってこれを打ちほろぼしました。忍熊王子は部下の伊佐比宿弥〈いさひのすくね〉とともに山を越え、近江〈おおみ〉の国(滋賀県)まで逃げてきましたが、もうだめだと覚悟をきめた二人は、小舟に乗って琵琶湖の沖へとこぎだしていき、嵐のようにさかまく波の中に身を投げました。命は見せしめのために、忍熊王子をはじめ彼の部将五人の首をはね、それにその人たちが身につけていた甲〈かぶと〉をいっしょにして、摂津の国の北にそびえる高い山の頂上にうめました。甲が六つと首が六つうめられたのです。それからこの山は六甲山と呼ばれるようになったそうです。

『摂津名所図会』

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