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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』神戸編 > 行基〈ぎょうき〉さまと有馬温泉(兵庫区有馬町)

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更新日:2012年11月12日

行基〈ぎょうき〉さまと有馬温泉(兵庫区有馬町)

前の仁西のお話に、行基さまのことが出ましたので、その行基さまと有馬温泉のことをお話しましょう。

行基は今からおよそ千二百五十年ほど前の奈良時代の有名なお坊さんでありました。
国国をまわり、道や田畑の池をつくり、また川に橋をかけ、さらにお寺や病院をつくるなどして、人びとのためにつくし、またあの有名な奈良の大仏さまがつくられるときには一生けんめい努力された方であり、そのため行基菩薩〈ぎょうきぼさつ〉とよばれて、後の世までもひじょうにあがめられているお坊さまです。
ところがある年、行基が、有馬温泉で病気の養生をしている気の毒な病人を慰〈なぐさ〉めようとして、有馬の近くまでやってきました。すると道ばたに人が倒れていました。おどろいて近づきますと、それは乞食〈こじき〉でした。ぼろぼろの着物に、顔は青ざめ身体〈からだ〉のあちらこちらに吹出物〈ふきでもの〉が出ていて、そこからくさい膿〈うみ〉がじくじくと流れています。
しかし行基はそんなことは少しも気にかけず、すぐにそばへいって乞食をだきおこし、
「どうしたのか。」
とたずねました。すると乞食は、
「わたしは、こんな病気になったので有馬温泉に入ってなおそうと思い、ここまできました。しかし、幾日も前から何も食べていないので、とうとう力がなくなり、倒れてしまったのです。どうかお坊さま、お助けください。」
といいました。そこで行基は、さっそく肩〈かた〉にかけていた弁当〈べんとう〉をおろして渡そうとしますと、乞食は手をふって、
「わたしは、この病気のために新しいお魚〈さかな〉しか食べられないのです。その外〈ほか〉のものを食べると、みんな吐〈は〉いてしまうのです。だから駄目〈だめ〉です。」
とことわりました。これを聞いた情〈なさけ〉ぶかい行基は、
「よしよし、わかった。それでは今から、わたしがその新しい魚を買ってきてあげよう。それまでがまんして待っておいで。」
といって、急いでもときた道を引きかえしました。そうしてはるばる長洲〈ながす〉の浜(尼崎市)へいって、新しい魚を、どっさり買って帰り、乞食にあたえました。
乞食はたいそう喜んで、これをむしゃむしゃとみんな食べてしまいました。そこで行基は、
「さあ、お腹〈なか〉が大きくなっただろう。それでは元気をだして、わしといっしょに有馬温泉へいくことにしよう。」
とたちあがりますと、乞食はまた手をふって、
「駄目〈だめ〉です。身体にできている吹出物が痛んで歩けないのです。そこでお願いしますから、その膿〈うみ〉を口で吸〈す〉っていただけませんでしょうか。お願いします。」
と涙をながしながら幾度も手を合わせ、頭を下げながら頼みました。たいていの人なら“馬鹿な、そんな汚〈きた〉ないことができるものか。”といって怒ってしまうのですが、しかしどこまでも情ぶかい行基です。
「それはかわいそうに。よしよし、その膿〈うみ〉を吸って出してやろう。」
といいながら、その吹出物のひとつひとつに口をあて、吸っては出し、出しては吸いながら、そのくさい膿を出してやりました。するとどうでしょう。その吸った吹出物のあとが金色に輝きはじめ、みるみるうちに乞食は金色〈こんじき〉の薬師如来〈やくしにょらい〉さまになりました。そうして行基にむかい、
「でかしたぞ行基、お前の情ぶかい心には感心する。このうえは、ひとときも早く有馬にいって、病〈やまい〉に苦しむ人びとを助けてやれ。わたしもそれを助けてやろうぞ。」
といって、さっと姿が消えてしまいました。
おどろいた行基は、さては薬師如来さまがわざと乞食の姿となってわたしの心を試〈ため〉し、励ましてくださったのかと思うと、そのありがたさに思わず涙がながれ、つつしんでお経をあげてお礼を申しあげたのでありました。

それから行基はすぐに有馬にいき、病気で苦しんでいる人たちをつぎつぎとたずねて、慰〈なぐさ〉めたり励ましたりしました。そうして、こうした病気の人や温泉に入湯にくる人のために、その幸せや安全を祈って、薬師如来さまをおまつりする温泉寺をたてました。そのため、江戸時代になっても人びとが温泉に入るときは、浴場でまず薬師如来さまを拝〈おが〉んで、それから後にお湯に入っていたのであります。

(『古今著聞集』)

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