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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』但馬編 > あわて者の庄兵ヱさん(但東町中山)

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更新日:2012年12月24日

あわて者の庄兵ヱさん(但東町中山)

むかし、中山村に庄兵ヱさんというたいへん愉快なおじさんがいました。暇〈ひま〉さえあれば、お寺に行って和尚さんと碁を打つのを楽しみにしておりましたが、何か仕事を始めると失敗ばかりしていました。

前の小川で鶏の料理をして、肉と粗〈あら〉の入った皿を両手に持って帰る途中、肉の入った方をポイと捨てて、粗〈あら〉の皿を大切そうに持って帰ってみたり、お上さんの留守に客があり、急いで御飯とお菜〈さい〉をたきかけましたが、お菜〈さい〉の蓋〈ふた〉をとって味をみては御飯の方に醤油をさし、お菜の味をみては御飯に醤油をさしましたので、ずいぶん変った御飯とお菜ができてしまいました。
それでも、庄兵ヱさんはすました顔で客に言いました。
「きょうはほんとうにおかしい日で、からい御飯と水くさいお菜〈さい〉ができてしまいました。どうぞ、お菜に御飯をそえて召し上って下さい。」

こんな庄兵ヱさんが、ある日、宮津まで荷物を届けることになりました。
「それでは行って来るよ。」
「お前さん、折角丹後に越すんだから、帰りには魚を買って来ておくれよ。」
庄兵ヱさんは大きく頷〈うなず〉いて、元気よく出発しました。
その頃、宮津に行くということは、岩屋峠という大きな峠を歩いて越すということですし、山の中の村に住む者が、久振〈ひさしぶ〉りに天の橋立のある宮津の海を見るということでもあります。庄兵ヱさんも、きようは海が見られると思うと、心もはずみ足も軽く、いつもより早く宮津について用事もすませました。そして、帰る時には、それでもお上さんの顔を想い出して魚も買いました。
「さあ、これで忘れものはないぞ。」
庄兵ヱさんは独り言を言って、藁〈わら〉づとに魚を入れ、それを杖の先〈さき〉にぶらさげて肩にかついで歩くことにしました。

ところが、庄兵ヱさんが岩屋峠まで帰って来ると、昼に宮津で食べたもののせいか、腹が張ってしかたがないようになりました。昔のことですから、何の遠慮のあろうはずはありません。道は人通りの少ない山道ですし、思いきって元気よく、出るものは出した方がいいのだと言わんばかりに、盛んに放屁しながら山を登っていきました。
しかし、その中に大きな失敗があったことに気づきました。何か異様な感触が残ったのです。
「しまった。」
庄兵ヱさんは、ちょっとあたりを見回して、山道から林に入り、身体から長くて白い布をとりはずしました。今の人なら、そのまま捨てて帰るところですが、昔の人のことですから、とてももったいなくて捨てるなんてとんでもないことです。
近くにあったおどろにゅう・・・・・・(薪を乾燥させるために積み上げたもの)の上に載せてある藁〈わら〉を取ってつと(わらなどで包んだもの)を作り、その中に大切に納めました。
そして、杖の一方に魚の藁づとを下げ、一方に今作った藁〈わら〉づとをつり下げ、前が魚、後があれ、杖を一振りして前後が逆になると、前があれ、後が魚と、自分の心に念を押し押し帰って来ました。

こうして、やっと日の落ちるまでに家に帰りついた庄兵ヱさんは、おみやげの魚を流〈なが〉し場に置いて座敷に上りました。
「お帰りなさい。魚買うて来てくれましたか。」裏口から入ったお上さんが声をかけますと、横座にあぐらをかいた庄兵ヱさんは、お前たちはわしをあわて者だと言うが、みやげの魚はちゃんと買うて来たわいと言わんばかりにいいました。
「ああ、買うて来て流しに置いてあるぞ。」
すると、台所からお上さんのかん高い声が響いて来ます。
「お前さん、何か白いよ。」
「そりゃー魚の腹は白いわい。」
庄兵ヱさんは悠然とお茶を飲んでいます。
「お前さん、何か臭いよ。」
「そりゃ、魚は臭いわい。」
庄兵ヱさんはゆっくりきせるに火をつけました。
「お前さん、何か長いよ。」
「えっ」
飛び上った庄兵ヱさんは、大急ぎでかわやの横に立てかけておいたもう一つの藁づとのところに素足で走って行きましたが、もうその時は、藁〈わら〉づとが荒され、みやげの魚はすでに犬か猫に運び去られた後であったと言われます。

こんなおもしろい話をたくさん残した庄兵ヱさんですから、そのあわてぶりは村中の評判になりましたし、だんだん有名にもなりました。ところが、多くの人々に語りつがれる中に、話が誇張されたり、他人のあわて話までも庄兵ヱさんの話になったりするようになって、しまいには、人は田に犂〈すき〉をかついで牛を追って行くが、中山の庄兵ヱさんは、牛をかついで犂〈すき〉を追うて行ったそうだなどと言われるようになりました。

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