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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』但馬編 > 「鴻の湯」の由来(城崎町湯島)

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更新日:2012年6月20日

「鴻の湯」の由来(城崎町湯島)

温泉〈おんせん〉の町「城崎〈きのさき〉」の旅館〈りょかん〉、土産物〈みやげもの〉やの建ち並ぶ〈たちならぶ〉、にぎやかな通りを過ぎて〈すぎて〉、ずっと奥まった〈おくまった〉、静かな〈しずかな〉地に「鴻の湯〈こうのゆ〉」という外湯〈そとゆ〉(共同沿場〈きょうどうよくじょう〉)が、あります。
「鴻の湯〈こうのゆ〉」は六世紀〈せいき〉ごろといいますから、今から、千三百年余り〈あまり〉も前〈まえ〉に、このあたりの人によって、見つけ出されたと、いわれています。
ここには、「城崎温泉発祥〈きのさきおんせんはっしょう〉の地」という立柱〈たてばしら〉があり、そばには「鴻の湯神社〈こうのゆじんじゃ〉」という小さなほこらもあります。このあたり一帯〈いったい〉は、「鴻の湯〈こうのゆ〉」を中心にして、小さい公園〈こうえん〉のようになっており、春夏〈しゅんか〉はもとより、秋の紅葉〈こうよう〉の時季〈じき〉にはとりわけ美しく、静かな〈しずかな〉ところです。

さて、この「鴻の湯〈こうのゆ〉」について、町の古老〈ころう〉は、ぼつり、ぼつりと、眼〈め〉をとじ、思い出をたどりながら、語って〈かたって〉くれました。

『ずっと、ずっと大昔にな、この湯島〈ゆしま〉の里〈さと〉、大谿川〈おおたにがわ〉の上流〈じょうりゅう〉に、それは古い、大きな松〈まつ〉の木が一本あってな、その木の上に、それは仲のええ夫婦〈ふうふ〉の鴻〈こう〉のつるが、巣〈す〉をかけておったそうな。
ところが、どうしたことか、そのうちの一羽が、ある日、脚〈あし〉に大けがをしてな。たぶん、この時分〈じぶん〉、このあたりに、わんさとすんどった狐〈きつね〉かいたちに、ふいにおそわれたんだろうな。巣〈す〉をたって、えさのたにしやどじょうをさがしにもいけず、巣〈す〉の中で、しょんぼり、悲しそう〈かなしそう〉にしとったそうな。残り〈のこり〉の一羽が、それはそれは、せわをやいてな。
それが、ある日のこと。けがをした鴻〈こう〉のつるは、巣〈す〉の近くの田の中に、ひょこんとおりて、一日中その場〈ば〉に立っていたそうな。それからは、来る〈くる〉日も来る〈くる〉日も、雨が降っても〈ふっても〉、日が照っても〈てっても〉、同じ場所〈ばしょ〉におりて来ては、立ち続けて〈つづけて〉おったそうな。
それが、ふしぎなことに、そこに立つようになって十日も、いや、二十日ぐらいとも、いわれているけども、とにかく、日がたつにつれて、鴻〈こう〉のつるは元気をとりもどしてな。そのうち、脚〈あし〉のけががすっかり治って〈なおって〉、前のように「カク、カク」と鳴き〈なき〉ながら、元気に空をとんだり、田の中を歩きまわるようになったそうな。
このようすを、近くの田んぼで仕ごとをしながら、毎日見ていた付近の百姓〈ひゃくしょう〉が、ふしぎに思ってな、ある日、鴻〈こう〉のつるがおり立っていた場所〈ばしょ〉を調べて〈しらべて〉みたそうな。すると、どうしたことだろう、その田の中から「お湯〈ゆ〉」がぶくぶくとわいていたんじゃ。びっくりするやら、よろこぶやら。
そこで、百姓〈ひゃくしょう〉たちは、その場所〈ばしょ〉に小屋〈こや〉をたてて、毎日仕ごと〈しごと〉が終わる〈おわる〉と、この湯〈ゆ〉につかることにしたそうな。ええあんばいの湯〈ゆ〉でな。つかれた手や足をのばしていたそうじゃ。


この湯につかると、くたびれもようとれてな。それに、手や足のすりきずも、うんだりせんと、ぐわいようなおったそうじゃ。
百姓〈ひゃくしょう〉たちは、ふしぎな「お湯〈ゆ〉」だと、会う〈あう〉人ごとに話して〈はなして〉な。それを伝え聞いた〈つたえきいた〉人までが、ここをたずねてはいりにくるようになったそうな。
そうして、だれいうともなく、このお湯〈ゆ〉を「鴻の湯〈こうのゆ〉」と呼ぶ〈よぶ〉ようになったということじゃ。』

今の建物〈たてもの〉は、十年余り前にあたらしく建て〈たて〉かえられて、民芸的〈みんげいてき〉な「山の湯〈ゆ〉」の感傷〈かんしょう〉をさそう、やわらかい感じ〈かんじ〉のモダンな建物〈たてもの〉ですが、今から五十年も前の「鴻の湯〈こうのゆ〉」の写真〈しゃしん〉を見ますと、田の中に、ちょこんと建って〈たって〉いる、淋しい〈さびしい〉感じの小さい浴場〈よくじょう〉です。
全国各地〈ぜんこくかくち〉から城崎温泉〈きのさきおんせん〉を訪れる〈おとずれる〉客〈きゃく〉が、年ごとにふえていますが、中には、わざわざこの「鴻の湯〈こうのゆ〉」をたずねて入浴〈にゅうよく〉し、疲れ〈つかれ〉や傷〈きず〉をいやす人が、あとをたちません。

(児島義一作「城崎語り草」の中から)

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