• お問い合わせ
  • 文字サイズ・色合いの変更
  • サイトマップ
  • 携帯サイト

メニュー

ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』但馬編 > きつねと小僧さん(美方町)

ここから本文です。

更新日:2012年10月8日

きつねと小僧さん(美方町)

むかし、ある山里近くに、人をよく化〈ば〉かすきつね・・・が一匹住んでいました。
夕ぐれどきになると、里へおりては人を化かすのです。
そこで、村人たちは、近くの寺に集まって、何とかしてあのきつね・・・を退治してやろうと、相談しましたが、なかなかいい考えが浮〈うか〉びません。なにしろ、きつねは何にでも化けてしまうのでどうしようもないのです。
ところが、そばでその話を聞いていた頭の良い寺の小僧さんが、
「ひとつわたしにまかせてくれませんか。わたしが必ずそのきつねをつかまえてみましよう。」と、いいました。
村の人たちは「これはありがたい。」と、小僧さんにお願いすることにしました。
そこで、さっそく小僧さんは、太い縄を一本持って、きつねがよく出るところへ行きました。そして、小僧さんは両手を口にあてて、大きな声で呼びました。
「和尚〈おしょう〉さーん。」「和尚さーん。」と、何度も呼びました。
「和尚さーん。迎えにきましたよー。」
すると、山の方から、
「おーい」「おーい」
と返事が返ってきたのです。小僧さんはまた呼びました。
「和尚さーん。迎えにきましたよー。」と、
和尚さんは「おーい」「おーい」と返事をしながらやってきました。
小僧さんは、にこにこしながら
「和尚さん、和尚さん、迎えにきましたぜ。」というと、和尚さんもにこにこしながら、
「おお、おお、よう迎えにきてくれたな。おおきに、おおきに。」と、いいました。
そこで、小僧さんは、
「和尚さん、いつものように、和尚さんをおおて帰ってあげようと思うて、縄をもってきました。おしょうさんは太〈ふと〉っとられて重いで、縄が切れたら困ると思うて、きょうは太〈ふと〉いのを用意してきましたで。」といいました。
「いやー。そぎゃあなことをしてもらわいでも、わしは自分で歩いて帰るでなあ。」
「けど、いっつもの和尚さんは『おおて帰れ、おおて帰れ』っていわれるのに、今夜はなんで『自分で歩く』って、いわれます?。」
「そうかいや。わしは、お前がえらかろうと思って、そういうたけど、お前がそんなにいうなら、おおてもろうて帰ろうか。」
こうして、和尚さんは小僧さんにおわれて帰ることになりました。
「和尚さん、道がひどうけわしゅうて、和尚さんが途中で落ちたらわるいで、おおうたこの縄をしっかりぼくに結びつけておきますで。」
と、和尚さんにしっかり縄をかけて背負いました。そして、里へと山道をおりて行きました。
村の入口まできますと、背中の和尚さんがいうのです。
「おい、ここらでおろしてくれんだろうか。」
「まあ、なんでです、きょうにかぎって遠慮〈えんりょ〉されて。」
「いいや、人が見て笑うかも知れん。」
「なんで和尚さん笑ったりしましょうえ。いっつも和尚さんは、ぼくにおわれて帰られるに、人はほめこそすれ、笑ったりしません。今夜にかぎって歩かれんでも、ぼくが寺までおおてあげます。」
「ああ、そうか、そうか。すまんのう。」
こうして、和尚さんはしっかりと小僧さんの背中にくくりつけられて、村の人たちが待っている寺まで帰ってきました。
「おおい。おおうて帰りましたぜ。」
小僧さんの帰りを待っていた村の人たちは、小僧さんが和尚さんを背負って帰ってきたのを見て、みんなびっくりしてしまいました。
ところが、障子も雨戸もしめきった部屋で、大勢の村の人たちの中におろされた和尚さん・・・・(?)は、びっくり驚いてしまって、うっかり大きな「しっぽ」を出してしまったのです。
村の人たちは「これは、きつねが化けておったのか。」と、逃げまわるきつねをみんなが追いかけました。しかし、とうとうきつねは障子をやぶって部屋の外へ逃げてしまいました。でも、雨戸がしめてあって外へは出られません。村の人たちは、寺の中をあちらこちらさがしまわったのですが、どうしてもきつねの姿は見えません。
どうしたものかと、困りはてて本堂へ行ってみると、一つしかない大切なご本尊さまが二つ並んでいるではありませんか。みんな、どちらが本当のご本尊〈ぞん〉さまか見わけがつかずまたまた困ってしまいました。
すると、さっきの小僧さんがでてきて、
「よし。ぼくが見わけてあげましょう。うちのご本尊さまは、ぼくが毎朝お茶をあげると、かならずにっこりと笑われるからすぐにわかります。」といいながら、お茶をとりに行きました。
やがて、小僧さんがお茶をもって出て来て、仏壇〈ぶつだん〉の前に立って、
「村のみなさん見ていてください。ぼくがお茶をさしあげてにっこり笑われるのが、本当のうちのご本尊さまですから。」
といって、お茶をそなえると、驚いたことに、一方の本尊さまがにっこりと笑ったではありませんか。
そこで、こんどこそはと、村の人たちはみんなしてにっこり笑った本尊さまをしばりあげ、やっとのことできつねをつかまえることができました。
それからは、この山里に人を化かすきつねはいなくなったということです。

(上治すみ 談)

お問い合わせ

情報管理部広報係

電話番号:078-331-9962

ファクス番号:078-331-8022