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更新日:2012年10月8日
生野代官所に勤めるあるお役人の屋敷の庭に、幹〈みき〉の中程から二た股になった古い大きな松の樹が、築地塀から空高く延びていました。
さて、いつ頃誰れがいい出したのやら誰れが名前をつけたのか知れませんが、この松の樹に“茶びんころ”が下るそうだ、という噂がたつようになりました。それからというものは夜分になれば誰れもその町筋を通らなくなりました。
この近くに清遊さんという按摩〈あんま〉が住んでいたのですが、目の見えない人には有りがちなように清遊さんも三味線を習い覚えていたと思われ、町の小娘たちに教えて風流人ともいわれていました。
ある晩のこと、清遊さんが家業を終えての帰り路筋であるこのお役人の屋敷前を通りかかりますと、何やら頭にパラパラ降りかかるので払い除けつつ歩いておりますと、こんどは前よりも烈しくなったものですから急に怖気〈おじけ〉づいて、「さては噂の茶瓶ころが出た」と思うと足がすくみ、持っている杖を夢中で振り廻しながらよろよろ家の戸口へ転り込んだのですが、それなり土間にへたり込んでしまい、年の割に気丈夫な清遊さんもこの時は大息をつくばかり、正気にもどったのはそれから時が過ぎた後のことでした。
“茶瓶ころ”がどんなものだったかを見たものは誰れもいません。そして松の樹もいつの頃かに根本から切ってしまわれ、それからは“茶びんころ”の噂も煙のように消えてしまいました。
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