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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』但馬編 > 因幡堂〈いなばどう〉(温泉町)

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更新日:2012年12月24日

因幡堂〈いなばどう〉(温泉町)

「兵庫県の背骨〈せぼね〉」といわれる中国山地には、畑〈はた〉ヶ平〈なる〉や仏頂〈ほとけのお〉山などの海抜〈かいばつ〉一キロメートル以上の山々がつらなり、ブナやトチなどの大木が生〈お〉い茂っていました。昼間でも空の光をさえ切って、うす闇〈ぐら〉い木立〈こだ〉ちの中を但馬〈たじま〉と因幡〈いなば〉を結ぶ「けものみち」のような細い道がつづいていました。
因幡との国境〈くにざかい〉に近いところに地蔵〈じぞう〉さまを祀〈まつ〉った小さなお堂があり、雨や風に損〈いた〉められて、粗末〈そまつ〉な建物〈たてもの〉でしたが、この道を通る旅人には雨が降ると雨やどりしたり、ここで休んでべんとうをたべたりして、ずい分ありがたいお堂だとよろこばれていました。
ところがいつの頃からか「このお堂に怪物が出て人をとって食う」といううわさがひろがり、人通がばったりととだえてしまいました。
このことを聞いた因幡鳥取藩〈はん〉の剣術の達人〈たつじん〉(上手な人)が二人で相談して「諸人〈しょにん〉の難儀を救おう(皆の困〈こま〉りごとをとりのぞこう)。」といって、怪物退治〈たいじ〉に出かけました。
この堂に来てみると、ひっそりとした堂の板の間〈ま〉には一人の目の見えない琵琶〈びわ〉法師が休んでいました。それはみすぼらしい白衣を着て、頭をテカテカそり上げた年よりですので、二人とも「これはおかしい。」と思って目くばせ(目と目で合ずすること)しましたが、何くわぬ顔で傍〈そば〉に座〈すわ〉り、
「琵琶を一曲〈きょく〉所望〈しょもう〉する。」(琵琶を聞かせてくれ)
と頼んでみました。
琵琶法師はすぐ琵琶をとり上げて、かきならしながら琵琶歌をうたい始めました。
二人ともしばらくそれに聞き入っていましたが、そのうちに一人の武士は立ち上って堂のそとに出てしまいました。
ところが・・・そのとき、どうしたはずみか法師の持っていたバチが手から落ちて、スルッと床〈ゆか〉板の上をすべり、座っている武士の目の前でとまりました。法師はそのあたりの床の上をなで回〈まわ〉してバチを探〈さが〉しています。
「拾〈ひろ〉ってやろう。」
と武士がバチを拾い上げると、そのバチは手にねばりついてしまいました。あわてて左の手でとろうとすると、その手もくっついてしまいました。その両手の間から透〈す〉きとおる細いクモの糸が何十何百となくまい上り、粘〈ねば〉っこくからだに巻きついてきました。ふりはなそうともがきながら前の法師をみると、熊のような大グモが一匹、目を光らせて武士をめがけて襲いかかってきました。
「助けてくれ!」
必死の悲鳴を聞いて飛込んできた武士にクモは突進してきました。
「エイッ」
するどい気合いで、抜〈ぬ〉く手もみせず切りつけた武士の刀は、「カツッ」と大きな音がしただけで、強くはじき返されました。クモの体全体に生えた太い毛のためです。
「目だ!」
武士は心の中でそう叫〈さけ〉ぶと、すばやく刀を逆手〈さかて〉に取りなおし、からだごとクモの目にぶっつかりました。
「グサリ」と刀はクモの目の奥深くつきささりました。
「やったゾ!」
武士がそう叫んで刀を抜き取ったときは、クモは八本の足をちぢめて丸くうずくまっていました。
そのとき、死力〈しりょく〉をつくしてやっとクモの糸をふりほどいた一人の武士も来て、二人でめった打ちに突きまわりました。
クモはもう身動き一つしません。だがそれでも二人とも安心出来ませんので、とうとうこの堂に火をつけて建物と一緒に焼きはらってしまいました。
それから後は怪物も出なくなりましたので、またこの道を旅人が交〈かよ〉うようになりました。

ところがこの堂は但馬の国にありましたので、但馬の村人は鳥取の殿様にもとのように堂を建ててもらいたいとお願いしました。殿様がいくらかのお金を下さったので、その金で堂を建てなおしましたので但馬のくににありながら「因幡堂」と名がついたということです。

(原話沢山亮長著「二方考」《天保十四年》より)

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