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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』但馬編 > 泡原〈あわら〉の長者(城崎郡香住町)

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更新日:2012年10月8日

泡原〈あわら〉の長者(城崎郡香住町)

今でこそ香住〈かすみ〉の町は、海岸に沿ってひろがっとるけどもな、昔は、あっちの谷、こっちの山すそに、小さな村をつくって、住んどったちゅうことだ。
そんなころ、香住村〈むら〉の人たちは、香住谷〈かすんだん〉の奥に住んどったそうな。そのころの話だというんだしけえ、何百年も前のことになるけども、香住谷の泡原ちゅうところに、三郎太という、それはそれはひどく欲ばりで、人のことは何とも思わない男がおったちゅうことだ。

三郎太は、お金もうけになることなら、どんなことでもするけども、たとえ一文のお金でも、損をするようなことには、手を出さないちゅうような、欲ばりの上に、人々がかげ口するほどのけちだったので、金蔵〈かねぐら〉が、二つも、三つもふえたと言われるほどの大金持ちになり、人々から「泡原の長者」と呼ばれるようになったそうな。

ところが、この三郎太も、子宝には恵まれず、女の子がたったひとりあるだけだったそうな。その子は、名をあやめ・・・といい、親とはま反対に、それはそれは気立てがやさしくその上、近所でもひょうばんの器量よし、だったので、
「親に似ぬ子だ。」
とか、
「泡原小町〈こまち〉だ。」
とか言われて、村の人はもちろんのこと、近郷近在まで、人々のうわさの種になっておったそうな。そうこうするうちに、あやめ・・・も年ごろになり、婿〈むこ〉を迎えることになったんだ。あれこれあった中で、三郎太が、白羽の矢を立てたのは、近在きっての旧家である北村七郎の次男だった。旧家とはいうもんの、そのころ、七郎の家は衰〈おとろ〉えかかっていたので、この縁談はさっそくまとまり、あのけちで欲ばりな三郎太からは、とても考えられないほどたくさんの財宝が、結納〈ゆいのう〉として送られてきたそうな。それを見た七郎の家の人は、おどろいてしまったのなんの、こんなにたくさんの結納につり合うだけの身仕度が、とてもできそうになかったしけえ。七郎の家ではあれこれ相談した結果、
「せっかくの縁談だけど、身仕度がしてやれないので、破談にしてもらえないだらあか。」
と、ことわりに行ったところ、
「何も仕度などはいらない。ただ、からだと扇子〈せんす〉に一ぱいの土を持って来てくれたらええ。」という、思ってもみなかった三郎太の返事だったので、七郎の家では、なんだかおかしな話だが、と思いながらも、三郎太の言う通りにして、吉日をえらんで、祝言〈しゅうげん〉をあげたそうな。

さて、夫婦仲もたいへん睦〈むつ〉まじく、楽しい日々を送っていたそうだが、日がたつにつれて、三郎太はそろそろ地金を出しはじめ、婿をいじめだしたげな。七郎の次男は三郎太のあまりにもひどい仕打ちに、妻のあやめのことが気がかりだったんだけど、とうとう、しんぼうできなくなって、三郎太の家を逃げ出し、七郎の家へ帰ってきてしまったちゅうことだ。

ところが、三郎太は、このことのくるのを待っていましたと言わんばっかりに、
「扇子に一ぱいの土とは、扇子を広げて、かなめから見とおして、その中にはいる七郎の家の土地は、みんなわしにもらったのだ。七郎の家の田も畑も屋敷も、みんなわしのものだ。」
と言いだしたそうな。そこで、七郎の家では、お役所へ訴え出たんだけど、三郎太は役人に賄賂〈わいろ〉をおくり、とうとう三郎太の勝ちとなり、そのために七郎の家はつぶれてしまったちゅうことだ。

一方、娘のあやめ・・・は、あまりにも非道な父の仕打ちを悲しみ、また、夫〈おっと〉恋しさのあまり、ある夜、ひそかに家を抜け出して、近くのこも池に身を投げたそうな。これを聞いた七郎の次男もあやめ・・・のあとを追って、同じ池に身を沈めたっちゅうことだが、その後、この池には、アヤメがおい茂り、その一株一株に、二本ずつの花を咲かして人々を驚かしたちゅうことだ。

ところで、三郎太の家では、ふたりが池に身を投げたその日から、双頭のへびが、昼といわず、夜といわずはいまわり、ついには、三郎太の首に巻きついてはなれないという出来事が起こったそうな。さすがの三郎太も、ようやく自分の罪の深さに気づき、今までの数々の罪をわび、ふたりのめい福を祈るため、諸国霊場巡拝の旅に出たそうだが、丹後(京都府)成相寺に参ったとき、同寺の、「鳴らずの鐘」の由来を聞いて、その鐘つき堂を寄進(同寺に、その時の寄進願文が残っているとのことです。)したちゅうことだ。
まあ、おめえらも、あんまり欲のふけぇことをしたり、人をいじめたりしたらいけんちゅうことだで。

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