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更新日:2012年6月20日

和田の竜(村岡町)

村岡町和田のお宮さんのあるところ。現在の国道九号線沿いの春来峠の登り口あたりに伝わる話です。むかしは、そのあたりに大樹が立ち並び、昼なお暗い不気味〈ぶきみ〉な森に囲まれるようにして大きな池がありました。
池のほとりには、蓮〈はす〉や藻草〈もぐさ〉が一面に茂っていました。その水の深さもどれほどか知れないほどでした。青みどろにおおわれた水面は、あるときは静かに、あるときはうねるように波立つこともあったそうです。
その池に、竜が住んでいるという噂が村中に広がって、池に近づく人もなくなってしまいました。

ところが、ある年の夏のことでした。
太陽がじりじりと照りつけるある日。ひとりの旅人が、その噂も知らず、池の近くの大木の根に腰をおろしてやすんでいると、長旅のつかれでつい「こくり、こくり」と居眠りをはじめました。
すると冷たい風が、どこからともなく吹きおこり、まわりの木々の枝が、ざわざわとざわめきだしました。池の水も、にわかに波立ちはじめました。と思うと、急に大きな水しぶきが立ちあがり、その中から大きな竜が「ぬっ」と姿を現わしました。それは、まるでこの世のものとは思えぬ異様なさまでした。
目をギラギラと輝かせ、耳までさけた口からは赤い舌をたらし、身を大きくよじらせながら、そのたびに全身のうろこを波うたせ、だんだんと旅人のいる岸へ近づいてくるのです。
居眠りをしていた旅人は、思わず「ひやっ」とつめたいものを感じて、目をさましました。そして、次の瞬間、自分めがけて泳いでくる大竜を見るやいなや「ギャァ」と、人の声でない叫び声をあげました。そして、村をめがけて、もう無我夢中で走りに走りました。
やっとの思いで村にたどりついた旅人は、「竜、竜が出た。竜が出た。」と叫びながら、「バタッ」とその場に倒れてしまいました。
それを聞いた村人たちは、「竜が出たそうだ。」「竜が出たそうだ。」「竜だ。」と、口ぐちにいいながら、旅人のまわりに集まってきました。旅人は倒れたままでまだ「竜。竜。」と叫びつづけました。
しかし、村人たちの手あつい看病〈かんびょう〉もむなしく、高熱を出し、「竜が出た。竜が出た。」といいながら死んでしまいました。
それからのちも、その池の近くを通った人が、幾人も「竜の姿を見た。」といっては、みんな高い熱を出し、「竜。竜。」と叫びながら死んでしまうのです。
このため、その池はおそろしい「竜の池」として、村人たちからおそれられました。村人たちも、何度か竜退治の相談をしましたが、どうすることもできませんでした。

次の年の秋のことです。
村を通りかかったひとりの坊さんが、この話を聞き、なんとかして村人たちの不安を、とりのぞいてやろうと考えました。が、とても並たいていのことでは、あの大竜に立ち向えません。そこで、村人たちにいいました。
「この近辺のもぐさと針をのこらず集めてきなさい。」と、村人たちは喜んで、村中のもぐさと針を山と集めました。
そして、大きな人形をつくり、集めたもぐさと針を残らずその人形の腹の中へつめ込み着物を着せて、池まで運びました。
坊さんは、池のそばに人形を立たせ、一生懸命拝みます。村人たちは、魔の池から逃げようともしない坊さんを、心配そうに遠くから見守っていました。
すると、どこからともなく風が吹きだし、池の水面が波立ってきました。坊さんは落ち着いて、人形の腹のもぐさにしっかりと火をつけました。そして、どこへともなく姿を消してしまったのです。
やがて、波立つ水面から竜が姿を現わし、岸辺の人形を見るやいなや、「あっ」という間にのみ込んでしまいました。
さあ大変です。竜の腹の中では、つめこまれたもぐさが燃え、針は腹の中をところかまわず刺しました。熱さに竜がのたうちまわれば、刺さった針が、竜のからだ中をぬってまわるのです。池は、大波が立ちさわぎ、荒れ狂いました。
しかし、やがて波は静まり、竜は力つきてとうとう池の底深く沈んでしまいました。
坊さんのおかげで救われた村人たちは、手をたたき合って喜びました。が、それもつかの間、それからというもの、村には火事が起こり、病気が流行して、次々に人が死ぬのです。だれいうとなく「これは、竜のたたりだ。」と、いわれるようになりました。

そこで、村人たちは、なんとか竜の怒りを静めようと、池のほとりに「竜神」を祭ったのです。
現在も、男の子の節句に、その池の菖蒲〈しょうぶ〉をつかって、「しょうぶ綱」という長い綱を毎年つくっています。迷信だといって、綱をつくらなかった年に、村で火事があり、以来ずっとつくり続けているのだそうです。
池のあとも、今は田んぼになっていますが、牛が入ると、足がうまるくらい深く、人間も腰まで入り、その田んぼに住むどじょうには耳があるなどといいつたえられています。

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