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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』但馬編 > 神さまのお通り道(八鹿町)

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更新日:2012年6月20日

神さまのお通り道(八鹿町)

九鹿〈くろく〉部落のいちばん奥の高いところに、日枝〈ひえ〉明神がお祭りしてあります。このお社の境内〈けいだい〉には、ほかに八幡〈はちまん〉さまと金比羅〈こんぴら〉さまもお祭りしてあり、毎年秋のお祭りの日に、「ざんざか踊り〈おどり〉」が奉納されることで有名です。この森のすぐ下に宮垣喜之助さんの家があります。この家のよこに、かって細い道がありました。それをまっすぐにのぼると、日枝明神のお社につづいていました。いまはこの道は少し離れたところに移っています。ふしぎな事件は前の道のうえに起こりました。喜之助さんの何代も何代もむかしの先祖のときのことです。

ある風の強い晩でした。九鹿の口のあたりの一軒が火事になりました。たちまち火は風をよび、風はまた火をよんで燃えひろがり、村を一呑み〈ひとのみ〉にせんばかりのすさまじい勢い〈いきおい〉になりました。あまりのはげしさに人々は家財道具を出すひまもなく、逃げまどうばかりでした。火はだんだんと日枝明神の森の方へ近づいてきます。宮垣さんの家ではおばあさんだけが家の中におり、ほかの人たちは外で防火のはたらきをしておりました。おばあさんはもう恐ろしくて、恐ろしくてたまりません。ただいっしょうけん命、神さまにお祈りしていました。ゴウゴウと燃えさかるほのおのひびき、パチパチとはじける竹の音、きしむようにうなって過ぎる風にまじって、切りさくような悲しい人々の叫び声がときおり聞こえてきます。燃えさかる村の炎の火の粉をあびながら、日枝明神の森はあかあかと照らし出され、怒りに狂ったように、境内の木々の葉を打ちふるわせていたことでしょう。
おばあさんはもう気を失いそうになるほど、神さまにいっしょうけん命お祈りしました。そのときどどどどどどーと、それこそ地をゆるがせ、腹の底にくいいるような異様なひびきが伝わってきました。と同時に、明神の森から火事場の方へ向かって、おばあさんの家のすぐそばの道を何かがすさまじいいきおいで通り抜けて行きました。思わずおばあさんの背すじは冷たく〈つめたく〉なりました。
しばらくすると外のようすが何となく変です。おばあさんは外に出てみました。するとどうでしょう、火が急に弱まっているではありませんか、風向きがにわかにまったく反対の方向にかわったため炎が燃えるもののなくなった方へ向くようになったからです。人々はこの機をのがさず消火に力を入れましたから、間もなく火は消え、宮垣さんの家のまわり一帯は焼けませんでした。

人々は喜びました。おばあさんはびっくりしました。あくる日の朝早くおばあさんは明神の森にお礼参りに詣で〈もうで〉ました。日枝明神の祠〈ほこら〉の前に立ってみると、「ヤヤッ」おおぶと(太いはなおの大きな草履〈ぞうり〉)が一足そろえてぬいであるではありませんか。おばあさんは息せききって家へ帰り、人々にこの話を伝えました。みんなも驚いて明神の森にのぼりました。そして、きっとあのとき、神霊が一陣の風となってお出ましになり、火をしづめて下さったのだと信じ、あらためて感謝の祈りをささげました。宮垣さんの家では代々この話を語り伝え、道ではなくなったいまも、その場所は「神さまのお通り道」とよんで大事にし、邪魔物は置かないようにしているということです。

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