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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』阪神編 > 水争いを防いだ紋左衛門(西宮市)

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更新日:2012年6月1日

水争いを防いだ紋左衛門(西宮市)

これは田んぼへの「引き水」をめぐって、場合によっては死人ができるかもしれないと思われるような事件を、無事〈ぶじ〉に防いだ〈ふせいだ〉一老人の奇知〈きち〉をたたえたお話です。
当時の西宮は、多くの村にわかれていましたが、その中には水に不自由を感じない所もあれば、どうかすると水不足で困る村もありました。中でも甲東〈こうとう〉村は仁川〈にかわ〉の水を用水に使っていましたから、そう不自由はなかったのですが、大社〈たいしゃ〉村は池の水にたよっていましたので、日照り〈ひでり〉が続きますと、たちまち水に不足するという所でした。

ところで、寛永〈かんえい〉十八年の夏は、ひどい日照りつづきでした。人びとは毎日つづく雲ひとつない空をあおいでは、「今日も雨は降らない…。」と、ため息をつくありさまでした。ことに大社村大字〈おおあざ〉中村では、田植えはどうにかできたものの一滴〈いってき〉の雨も降らないのですから、池の水も底をつき、稲田〈いなだ〉はカラカラ、あっちこっちにひび割れがはいり、稲は今にも枯れ〈かれ〉そうになりました。何回か雨ごい祭もしましたが、いっこうにきき目はありません。村の人びとは最後のてだてとして井戸水を土びんにくみ、一本一本の稲にかけることまでしましたが、稲の枯れるのを防ぐにはあまりにも悲しいこころみでした。中村の人にとっては命にかかわる一大事になってしまいました。人びとは、天をあおいでこのまま稲の枯れるのをまつか、どこからか水を引いてくるかより方法はないと考えました。そして目をつけたのが仁川です。仁川もさすがの日照り続きで水量も少くなってはいましたが、その水を「引き水」としている北の甲東村の稲田は生き生きとしています。その水を少しぐらいもらってもいいだろうと、考えたのはむりもありません。しかし、そのころのお百姓さんにとって、水は命のつぎに大切なものだったのですから、たのみにいったところでわけてくれるとは思われません。中村の人びとは、ある晩、ひそかに手に手にクワ・スキ・モッコを持って一夜の中〈うち〉に仁川からの水路を堀ってしまったのです。

水はどっと流れこんで中村の稲は生き返りました。ところが、首をかしげたのは甲東村の人びとです。
こんなに水が急に少なくなるはずがない。村人たちは総出で調べてまわりました。村のたよりのつなである仁川の水が、上流で別の方向に引かれていたのです。さて「水ぬすっと」のしわざと、さっそく水路を元どおりにしました。しかし、二日程たつとまた水量がへるのです。こんなことが何回かくり返されました。甲東村の人びとは、水どろぼうのあまりのしつこさにもうがまんができなくなりました。力じまんうでじまんの元気者が数十人クワ・カマなどの武器を持って、水路の分れ口近くの木かげで待ちかまえることにしました。

いっぽう、命がけの中村の農民たちはそんなこととは知るはずもありません。今夜中に閉ざされた水路を開通しなければ稲が全滅〈ぜんめつ〉します。一人の小声のさしずで、いっせいに工事を始めました。水どろぼうを目の前にした甲東村の若者たち、さてはこいつらのしわざであったかと、いっせいにおそいかかろうとしました。そのときです。ザワザワとおかしな音がしたのです。ふと目の前の岩を見あげたら、なんと、おりからの赤い不気味な月に照らし出された白しょうぞくの大男が、手に羽うちわを持ち、ものすごい目つきでにらんでいるではありませんか。
「わあっ、天狗〈てんぐ〉じゃ!。」「逃げろ!。」
甲東村の元気者はいっせいに逃げ出してしまいました。翌朝、甲東村では、天狗のしわざでは仕方がない。少しぐらいの水不足はがまんしよう。それより天狗のたたりのほうが恐ろしい。と水路をもとどおりにしないことにしてしまったのです。おかげで中村の百姓たちは、水に苦しまないですむようになりました。

この天狗、実は中村の人、紋左衛門だったのです。紋左衛門は仁川の上流からひそかに「引き水」をすると決心したときから、甲東村との間におこるにちがいない水争いで、たとえ命の次の稲を守るためとはいえ、同じ人間どうしが血を流しあうようなことは、さけなければならないと思っていたのです。
そこで、かれは一計を考えたのです。それは、当時の人たちが一番恐れていた天狗になって、人びとを恐れさせるということです。計画はうまくいきました。ひとりのけが人もなく、しかも中村にも水がくるようになりました。大社村の人たちは紋左衛門のこの智恵〈ちえ〉に感謝して、明治二十八年に広田〈ひろた〉神社のけいだいに石碑〈せきひ〉をたてました。「兜麓底績碑〈とろくていせきひ〉」と正面にほりこんであります。

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