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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』阪神編 > 小戸(雄家)の釣鐘火―あるお年よりのはなし―(川西市)

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更新日:2012年6月1日

小戸(雄家)の釣鐘火―あるお年よりのはなし―(川西市)

篠山〈ささやま〉に近い後川〈しつかわ〉というところで峰〈みね〉をわけて。そうだす。有馬山系〈ありまさんけい〉から、チョロチョロと流れ出した水は、柏原〈かしはら〉の部落、杉生〈すぎお〉、紫合〈ゆうだ〉、広根〈ひろね〉(猪名川〈いながわ〉町〉の盆地〈ぼんち〉をうるおし、東の能勢〈のせ〉の妙見山〈みょうけんやま〉から流れてきた流れとあわさって、多田村(川西市多田地区)を流れ、昆陽〈こや〉の里(伊丹市)をすぎて大阪湾にはいっていきま。

この川、猪名川の流れは今でもきれいでっけど、むかしはたいへんきれえな川だした。そうだんなあ、深い渕〈ふち〉は、ふかみどりの水をいっぱいにたたえ、白い激〈げき〉となり、岩を走り、鮎〈あゆ〉を育てますんや。川の両岸は、青葉、若葉にふちどられ、春は、紫や白いすみれが、だれの目にもつかずひっそりと咲いてまんねん。ほれもきれいでっけど、秋には、はぜや、ぬるでの紅葉がいちだんときれいでっせえ。たしか、歌人の大江丸とかいうお人が、
若葉まて 百年ののち ここに住む
と、歌をのこされていると聞いてまんねやけど。この美しい川は、昆陽〈こや〉にはいる前に、加茂〈かも〉の台地のすそを流れていきまっけど、その加茂から、川の流れにさからって、北の空を見てみなはれ。ほれ、山のどてっぱらいっぱいの釣鐘〈つりがね〉の送り火が見えまんねやけど、きょうは、あの送り火の話をひとつみなさんにお話しまひょう。

そら、京都の東山の大文字や、北山の左大文字は有名でんなあ。けど、この釣鐘山、ほんまの名前は石切山でっけど、釣鐘の形の送り火をたくんで、こんな名前になったんやけど、これも、このあたりでは名物のひとつになってまんねんでえ。

この釣鐘山〈つりがねやま〉に、なんでこんな送り火がたかれるようになったか。

あの山はむかし、小戸の山だした。小戸の部落は、山のすそにあつまるようにできてましてん。むろん、猪名川の水をひいてみんな米を作っとりました。けど、さあ、いまからどんだけ前のことかわかりまへんけど、このへんいったいにえらいひでりがやってきましたんや。きれえな水をたたえていた猪名川も、この年ばかりは、ぐんと水のかさがへってしもて、田や畠へ水をひくこともでけしめへん。そうでんなあ、ぎょうさん水のあるときは深い渕もでけまんねやけど、もともとこの川は、どっちかというと鉄砲水〈てつぽうみず〉のほうでんなあ、まして川上のほうであらかた水を取ってまっしゃろ、小戸の部落では、近年にない水不足で、みんなえらいこまりましたがな。村の衆〈しゅう〉は、よるとさわるとその話ばっかりで、旦那衆〈だんなしゅう〉も、何回とのうこの水ききんをどう切り抜けるかという相談に、ひたいをあつめて心配してましたんや。部落のお年よりのあいだでも、石切山で大きな千束柴〈せんぞくしば〉をたこうとか、神さんにお供えでもして願いを聞いてもらおうとか、いやもう、えらい話も出てきまんがな。

こんなあわただしいおりにこの部落へ、ひとりの修験者〈しゅげんじゃ〉があらわれて、
「自分はこれから小戸山の山上で定〈じょう〉にはいるのだが、毎年あの山に釣鐘火〈つりがねび〉をたいて供養してくれるなら、小戸をひでりの害からまぬがれるようにまもろう。」
と、いってくれたんでなあ。みなりのまずしい修験者でっけど、そらそのときの部落の人たちには、光りかがやく光背をかざした、あみださまの姿に見えたんでしょうなあ。旦那衆はいうにおよばず、村の衆はみんな涙をながしてよろこび、かならず毎年お盆の十五、十六日には、供養〈くよう〉のために釣鐘火をたくことを約束しましたんや。

さっそく山上で修行をはじめた修験者は、おしまいに山の上にほら穴をほり、自分で自分の身を、その穴にとじこめ、お経をとなえながら、命をたってしもてでしてん。
それからというものは、その年はいうにおよばずあの修験者のいうたとおり、小戸〈おおべ〉部落は、ひでりの害におそわれることがなかったということでっせえ。

小戸部落の衆も、修験者との約束を守って釣鐘火をたきつづけはりました。そのときにいるお金も小戸に田地〈でんち〉を持っている人たちの寄付や、ということでっせ。それにこの準備がえらいこってすわ。八月一日から下ごしらえにかかって、しばかりから、松明〈たいまつ〉づくり、釜場〈かまゆ〉ごしらえに、ちょうど半月がかりだんなあ、その日の係りも、〈ほこら〉もち、茶わかし係、弁当もち、塔婆〈とうば〉もち、これは部落でこの一年間に法事で使うた一年分の塔婆をもちまんねん、輪〈わ〉竹もち、松明〈たいまつ〉もち、松葉もち、小麦藁〈こむぎわら〉もち、道具もち、消し方、とえらいこってした。ほんでも小戸の人たちは、あの修験者との約束を守って今日まできたんでんなあ。そら、つい最近はもうこんなたいそうなことせえしめへん。
あのように電燈の光でっけど、むかしにかわらず毎年盆の日には送り火をつけ続けとってでっせえ。

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