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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』阪神編 > 観音おどり、今昔物語(尼崎市)

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更新日:2012年6月1日

観音おどり、今昔物語(尼崎市)

毎年八月十八日の夜、尼崎の上守部〈かみもりべ〉のお宮さんの境内〈けいだい〉では、太鼓〈たいこ〉の力強いひびきと、やさしい三味線〈しゃみせん〉の音色〈ねいろ〉にあわせて、観音〈かんのん〉おどりが行なわれます。先祖代々〈せんぞだいだい〉いい伝えられ、おどり伝えられた、このおどりは、かなり広い地域にひろまっています。

境内の中央にやぐらを組み、そのぐるりを老若男女〈ろうにゃくなんにょ〉がたのしくおどるのは、どこの盆おどりでもみられる光景ですが、大へんおもしろいいい伝えが、代々受けつがれていることがわかりました。

「観音さまの命日〈めいにち〉である八月十八日に雨でも降れば、その年はもうおどりません。」というのです。やぐらの上に長さ約三十センチ、直径約五・五センチの筒〈つつ〉のようなものをかならず、つり下げることになっています。ハスの花の模様〈もよう〉のはいった錦〈にしき〉の刺繍〈ししゅう〉で、きれいに巻かれたその筒の両端〈りょうはし〉には、銅製の金具がついています。そこには、二羽の鶴と一匹の亀、松竹梅が組み合わされて描かれているのです。

吉祥文〈きっしょうもん〉だなぁーと思いました。この模様は、安土〈あづち〉・桃山〈ももやま〉・江戸時代をとおして、柄〈え〉のついた鏡〈かがみ〉に多くみられるもので「おめでたい」心を表現しているのでしょう。

でも、いい伝えられているものの中に「この筒はありがたいもの。」「ひょっとしたら、観音おどりの、いわれがのべているのでは。」…とはいうものの、この筒を開いて、中を調べてみるということは「たたりがあるので恐ろしい。」「正念〈しょうねん〉をお寺さんにぬいてもらってから。」というのが村の人の心の中にあったのです。

そこで、この村の役員さんたちにおねがいして、この筒の調査をさせていただきました。その日を四月の第一日曜日ときめ、上守部の神社の境内にある集会場で、その筒の調査となったのです。
錦の刺繍をめくってみますと、「御礼〈おれい〉」という字が和紙にかかれており、丸太棒にはりつけられていました。それも紙の裏が表になっていますので「御礼」という字は反対に、うつって見えるのです。

この「観音おどり」は、いい伝えのとおり、遠く三百年前から行われていることは、この筒によりはっきりしてきました。

ここで、もう一つ、いい伝えをたよりに、「観音おどり」と上守部との関係をまとめてみました。
まず「観音おどり」をする神社の境内にお堂があり、そこに聖観音像〈しょうかんのんぞう〉と、掛軸〈かけじく〉に描かれた〈えがかれた〉仏像が安置されているのです。いずれも美しい厨子〈ずし〉の中におさめられており、八月十八日だけ拝む〈おがむ〉ことができることになっています。

この観音さんは後光明院〈ごこうみょういん〉の古い手紙によると、ご先祖の冥福〈めいふく〉をお祈りするため、天皇が役人に命令を出され、太上〈だじょう〉天皇(天皇が位をゆずられたのちの尊称)が、この観音像を大切にするものとされています。

万治〈まんじ〉三年(一六六〇)に後西〈こうせい〉天皇が京都の戒光寺〈かいこうじ〉におくられ、長く安置〈あんち〉されました。この寺は、この観音像があることが、大へん、ほまれなことだったと、平哉〈へいさい〉という人の記録で後世〈こうせい〉にのこされています。

また、もうひとつの文書によると―
元和〈げんな〉年中(一六一五~一六二三)のころ第百八代の後水尾〈ごみづのお〉天皇は、ご先祖の冥福を祈られるために、法華経〈ほっけきょう〉というお経六万九千三百八十四文字をかかれ、その慈悲〈じひ〉をえがいたお姿の観音像です。その昔、京都の泉桶寺〈せんにゅうじ〉派である戒光寺に安置されていた観音像ですが、天皇の命令で、この守部村にうつされたものです。<摂津国第十五番札所記より>

江戸時代の初期、今まで京都の戒光寺に安置〈あんち〉されていた観音さまが、上守部の寿福寺〈じゅふくじ〉にうつされ、そのとき村人たちは、この尊い観音像をおまつりしているお堂の前で、いろいろなお願いをしました。そして八月十八日の観音さまのご命日にそなえて、六月の終りから、七月のはじめ田植のおわったとき、村人はお堂の前で、太鼓や三味線にあわせて、力いっぱいおどりました。

しかし、尊い観音像をたいせつにお守りするために、ちょくせつ、観音さまに出ていただくかわりに、尊いものをやぐらの上につるすことになりました。当時、たいせつな錦の刺繍で丸太棒をまくことや、観音さまに対しての村人の「御礼」の気持ちも、ここにしめされていました。それに、吉祥文様〈きっしょうもんよう〉を入れてあるのは、豊作を祈り、病気にならないよう守ってもらいたいという、村人の素朴〈そぼく〉な祈りだったのです。

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