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更新日:2012年6月1日

柳の下から霊水―宝塚温泉の始まり―(宝塚市)

むかし、足利〈あしかが〉十二代将軍義晴〈よしはる〉の時代(今から五百五十年ほど前)に、宝塚にひとりの貧しい女が住んでいました。
女はたいそう信心が深くて、つね日ごろから中山観音〈なかやまかんのん〉さまにお参りしておりました。

ところが、女が五十才になった時、どうしたわけか、なんともしれないたちの悪いハレモノにとりつかれてしまいました。知る限りの薬はもちろんのこと、人にあれこれと聞いては治療〈ちりょう〉をこころみてみましたが、いっこうに効きめめ〈ききめ〉はなく、それどころか、ますますひどくなっていくばかり、女は、ほとほと弱りはて、日夜、身もだえて苦しんでいました。
ある夜のことです。女は今夜もハレモノのいたさで、寝つかれず、長い間苦しんでいましたが、そのうち疲れて、うとうとと、まどろんで(とろとろとねむる)いますと、枕もとにすーっと一人の坊さんがあらわれました。そして、じっーと女をみつめていましたが、やがてその坊さんのいうのには、「お前は、たちの悪いハレモノにとりつかれて苦しんでおるな。いくら薬でなおそうにも、なおるどころか、ますます苦しみが増すばかりじゃ。実はな、それにはわけがある。お前の前世のわざわいがきているのじゃ。お前は前世にはな、上流階級の身分であった。それに金持ちでな。なに不自由のないくらしをしておったのじゃ。ところが、お前は、心がおごって目下の者にはつらくあたった。

なかでも下女には、ことさらひどいしうちをしたのじゃ。そこでつかわれていた下女どもが、みんなお前をうらみ、中にはうらみとおして果てた〈はてた〉者さえおった。そうした下女どものうらみが、現世のお前にたたってそのハレモノにあらわれているのじゃな。薬でもやくばらいでもなおらないのはそのためじゃ。このままでは、お前は、いずれ苦しみもだえた末、命を絶やして〈ついやして〉しまうことになるじゃろう。ところで、お前は、つね日ごろから信心のあつい女じゃ。いっ心に観音をあがめているのは感心じゃ。そこでわしはその信心にめでて、ひとついいことを教えてやろう。
この武庫の川の上流に鳩が渕〈はとがぶち〉というところがある。そのそばに古い大柳が一本立っておる。その大柳の木の根元を掘ってみるがよい。清い水が湧き出るはずじゃ。それは観音の霊水〈れいすい〉でな。その水を湧かし、湯にしてからだをつけてみるがよい。ハレモノはたちまちにしてなおるであろう。」坊さんはそういうとすーと消えてしまいました。
ハッとして目をさました女は、ありがたいお告げ〈おつげ〉に大いに喜んで、その夜は夜通し観音さまの名を唱え〈となえ〉つづけました。

夜が明けると、女は弱ったからだをひきずるようにして宝塚紅葉谷〈もみじだに〉にある十一面観音〈じゅういちめんかんのん〉の祭ってある塩尾寺〈えんぺいじ〉に行き、そのお寺の海伝〈かいでん〉というお坊さんをたずね、夢の話をしました。
それはそれはというので、二人連れ立って鳩が渕〈はとがぶち〉のそばに立つ大柳の根元を堀ってみますと、これはどうでしょう。ごぼ、ごぼ、ごぼごぼと清水が湧き出、こんこんと尽きる〈つきる〉ことがありません。味は塩よりもなおからいものでした。
女は清水を汲み〈くみ〉、湯に沸かして入浴してみますと、どうでしょう。あれほどたちの悪かったハレモノは、すいすいとひいていき、たちまちもとのからだにかえっていきました。
その霊水が、今に伝わる宝塚旧温泉だと近在の人びとは語り伝えています。

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