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更新日:2012年6月1日

義民、弥十郎らの話―酒樽で鳴尾村を救う―(尼崎市・西宮市)

今から、およそ四百年前、鳴尾〈なるお〉(西宮市)の農民たちは、近年まれな水ききんに苦しんでおりました。そして隣り村の瓦木〈かわらぎ〉村に水をわけてもらうよう頼んだのですが、ことわられ「ああ、水がほしい、水がほしい。」と痩せた〈やせた〉土地を眺めて〈ながめて〉は、こうつぶやくのでした。そして、その昔、武庫川〈むこがわ〉の氾らん〈はんらん〉で枝川ができたことにより、鳴尾村に水をひくことができなくなったことを思い出しては「武庫川の氾らん〈はんらん〉さえなかったら。」と、自然のいたずらにたいして、にくく思うのでした。
鳴尾の農民たちは、毎日、毎日考えつづけました。

「水ききんといっても、川の水をひいている村が、現〈げん〉にあるじゃないか。」「このままでいったら、われわれは飢え〈うえ〉死にするぞ。」「そうだ。新川の水をひこうじゃないか。」みんなは真剣〈しんけん〉に語りあいました。
「そうだ、そうだ。瓦木村には悪いが、新川の水をひくしか道がないではないか。」「おい、しかし、こんなことを勝手にしてお上〈おかみ〉に訴え〈うったえ〉られたら死刑〈しけい〉になることは必定〈ひつじょう〉だぞ。」鳴尾の農民の心の中は複雑〈ふくざつ〉でした。
「水がほしい。水がほしいのだ。」そして“勝手に水利工事をしてはいけない”という気持と“この危機〈きき〉をきりぬけるのは水利工事をしなければ”という気持が、農民の心をかきみだしました。
この苦しみ、もだえる心の中が、誰が伝えるともなく、いい伝わり、やがて武庫川を越えて、大庄〈おおしょう〉村(尼崎市)の弥十郎〈やじゅうろう〉(屋号〈やごう〉=忠兵衛)の耳にも入ってきたのです。
弥十郎は、鳴尾村の人たちのことを思うと、決して他人ごとのようには思えませんでした。
「鳴尾村の人たちのために、自分の力をふりしぼってみよう。」弥十郎は武庫川から新川、新川から鳴尾村へと歩いては考え、考えては歩きました。
「どのようにして、新川の水を鳴尾村に入れたらよいか。」鳴尾村の人たちとともに寄合って、いろいろな方法をのべました。弥十郎の心の中は人間として、人間らしく生きる農民としていっしょうけんめいに意見を発表したのです。
そして、ある日、鳴尾村の人たちをはじめ、弥十郎たち、全部で二十五人の人たちは、大きく、うなずきました。
「酒樽〈さかだる〉の底をぬいて、これを横につないで、水を通そうじゃないか。」深夜、二十五人の農民は、月あかりを利用して、せっせと働きました。酒の四斗樽〈よんとうだる〉の底をはずしてそれを並べる人、鋤〈すき〉で川底を堀る人、酒樽を川底に横に重ねあわせる人、みんな額〈ひたい〉は汗でびっしょりでした。

そして東の空が明ける頃には、もう新川の水が、鳴尾村の痩せ〈やせ〉地に流れこんでいました。
みんなは、大よろこびでした。
「よかった。よかった。」このようにして枯れ〈かれ〉果てる〈はてる〉寸前にあった稲〈いね〉は、みごとに生きかえったわけです。

だが、この農民たちの、よろこびも束〈つか〉の間、新川の水を、あてにしている瓦木村が争いをおこしてきました。そのうえ、はては乱斗〈らんとう〉となり、たくさんの死者を出すという悲しいことが起りました。このことで大阪検地〈けんち〉奉行所〈ぶぎょうしょ〉片桐且元〈かたぎりかつもと〉、増田長盛〈ますだながもり〉は、弥十郎ら二十五名を取り調べることとなりました。

「お前たちは水がほしいか。それとも生命がほしいか。」という、おたずねにたいして一同は、「水の方が、ほしゅうございます。」と、きっぱりと、こたえました。
そののち、このことは豊臣秀吉に伝えられ、次のような、お達しが出されたのです。
「鳴尾村数百人の村民を思う心はりっぱではあるが、法はまげられない。酒樽の数だけ人の生命を斬る〈きる〉。しかし、末代〈まつだい〉まで水は鳴尾村にやろう。」二十五名の農民は囚われ〈とらわれ〉の身となり、大阪の牢獄〈ろうごく〉で、死罪〈しざい〉の日をまつのでした。
そして、天正二十年、十月十二日、全員が死罪〈しざい〉となりました。これらの人たちは「義民〈ぎみん〉」とたたえられ、今日、鳴尾村の田畑をうるおわせているのも、この二十五名の、生命をすてた行為〈こうい〉があったおかげです…と弥十郎の子孫である西村護〈まもる〉氏は語るのでした。

今、弥十郎たち二十五名の人たちは甲子園球場の近くにある浄願寺〈じょうがんじ〉で安らかなねむりをつづけております。一方、酒樽で水を鳴尾村に入れた場所(甲子園北郷公園)には「義民採水〈ぎみんさいすい〉の地」という顕彰碑〈けんしょうひ〉がたてられています。そして命日には多くの人たちが、お参りしております。

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