• お問い合わせ
  • 文字サイズ・色合いの変更
  • サイトマップ
  • 携帯サイト

メニュー

ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』淡路編 > 白山権現〈ごんけん〉(東浦町浦)

ここから本文です。

更新日:2012年12月10日

白山権現〈ごんけん〉(東浦町浦)

「こうして毎日安楽〈あんらく〉にくらせるのも、ひとえに白山権現さんのおかげであって、ほんとうにもったいないことだ。決して決して淡路の白山権現さんの方へ足を向けてねてはいけませんよ。ばちがあたりますぞ。」
炭屋五郎兵衛〈すみやごろべえ〉さんは店の人たちに、きょうもそう言って聞かせました。

五郎兵衛さんは、大阪思案橋西詰〈しあんばしにしづめ〉に大きい炭屋の店を出しております。始め淡路から出て来た時は、小さい店でしたが、二年、三年するうちに店がせまくなり、横に家をたてましをし、後ろにも家のたてましをし、とてもりっぱな大きいかまえの店になりました。
「ほんとうに白山権現さんのおかげで、もったいないことだ。」
家におまつりをしている権現さんに家内中の人が手をあわせておがんでおります。

といいますのは、
五郎兵衛さんは、淡路の白山村に住んでおりました。ひまがあると権現さんに登っていきました。二百メートルの高い所にあるので、登りながら見下す大阪湾は波が静かで箱庭の池のように見えました。春はさくらが美しく咲きみだれ、うぐいすの谷渡りも聞かれます。風もないのにヒラヒラと時おりに散る風情〈ふぜい〉に心をうばわれ時のたつのも忘れて拝殿に腰をおろしていました。
夏はまた涼しいのです。青葉の香りがとってもすきで五郎兵衛さんはよく昼ねをしました。秋は木々の葉が赤く黄色く色づき絵に書いたようです。その上に木の実が―特にしいの実がすきでよく拾って食べました。かたい皮を歯でゴキリとかんでその白い実の上のうすい幕をていねいに取って食べました。かめばかむほど甘くおいしい実です。
冬の小春日和〈こはるびより〉の日、拝殿で横にねころぶとついうとうととしてきます。西浦と違って東浦はあたたかく、どてら一枚違うのである。あるあたたかい日の昼頃。
「もうすぐあたたかい春がくるんだ。木々の芽も伸びてくるぞ。」
五郎兵衛さんは、またも白山権現の拝殿でこんなことをつぶやきながら横になっておりました。
「これこれ五郎兵衛、年中こうしてたずねてくれるのはありがたいが、一度思いきって大阪へ出ていきなさい。大阪で商売をするんだ。きっと成功する。炭屋でひとはたあげてごらん。」
ハッと気がつくと、居眠りをしていたと見え日は西にかたむきかけておりました。(たしかに白山権現さんは大阪へ出て炭屋を始めよとおっしゃった。)(よしのるかそるかやってみよう。)
やっぱり白山権現さんのお告げの通り出世〈しゅっせ〉しました。大名にもたくさんお金を貸すほど金持ちにもなり信用を得ました。出世をすればするほど白山権現さんが忘れられず、淡路に帰ってきては権現さんにおまいりをして、石燈ろうや鳥居さんをたてました。浦の松帆神社にも五郎兵衛さんが奉納した能〈のう〉の面が江戸時代の初めから今に伝えられております。五郎兵衛さんには物音一つしないしーんとした拝殿で考えごとをする楽しさは格別であったようでした。

お問い合わせ

情報管理部広報係

電話番号:078-331-9962

ファクス番号:078-331-8022