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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』淡路編 > 臼売ったもん(北淡町富島)

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更新日:2012年6月20日

臼売ったもん(北淡町富島)

むかし、淡路のある港町を、船着場のほうに向かって歩いている一人の商人があった。
「島でのあきないも、うまくいったし、そろそろ、家族の待っている尾張〈おわり〉の町(今の名古屋)へ帰るとしょうか。でも、のどがかわいたなあ。」
夏の暑い日だったのでのどがかわいてしょうがない。ちょうど通りすがりの町並の軒下〈のきした〉で、お米をついているおばあさんに、「えらいせいが出ますなあ、おばあさん、すまんけんど水を一杯くれまへんかいなあ。」
「へい、へい、お水ですか、おやすいご用で…。」
とさっそく、水をくんできて商人と世間ばなしを始めた。そのうち、おばあさんが米をついていたウスをみた商人が、「おばあさん、そのウスをゆずってくれんかなあ。」
「こんなウスなんでほしいんや。」
「うちの亡くなった〈なくなった〉おふくろを思い出してなあ、そのウスが、うちにあったウスに、よう似とるんや、どうや十貫銅で売ってくれまへんか。」
「へー、そんな高い値で買うて〈こうて〉くれるんか。」
おばあさんは、こんなしょうもないウスを、そんな大金で買ってくれるというので、よろこんで売ることにした。十貫あれば、こんなウスをいくつも買える値段なのでほんとうにうれしかった。

「どうぞ、もっていきなされ、そこらにいる若い衆に船着場まで運ばさせるさかいに。」こうして、おばあさんからウスを買った商人は、なぜか、宝物でも手に入れたように、にこにこしながら、運ばれたウスと共に船に乗りこんだ。

一方、おばあさんは、野良仕事から帰った息子夫婦と共に、「せめて、あんなウスを大金で買ってくれたお礼に、お見送りしよう。」と三人で船着場へやってきた。商人は、びっくりして、「さては、このウスをとりもどしにきたのか。」そう思って船頭に、金をいくらか与えて、「すまんけど、はよ船を出してくれ。」とせきたてた。船が沖へ出て、船着場の三人の姿が小さくなると、商人は、ほっとして、満足したように、にこにこしながら、船頭に、話し始めた。

「このウスはな、伽羅〈きゃら〉という木で作ったもんでな、京都へもっていったら、何千貫もの高い値で売れるんじゃ、あのおばあさん、何も知らんと、十貫で売ってくれよった。」「そら、よかったですなあ、そんなら、あの三人、船着場へ、このウスをとりもどしにきよったんですかいなあ。」「そうやろ、でも、もうおそいわ。」商人は、大きな声で笑った。
その後、船頭の口から淡路中にこの話が伝わり、おばあさんや息子夫婦は、くやしがったが、あとの祭りになってしまった。

今でも、淡路の一部では、「うす売ったもん」ということばは、「何も知らんやつ」という意味につかわれている。

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