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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』淡路編 > 伊勢〈いせ〉千代の首代り(五色町鮎原)

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更新日:2012年11月12日

伊勢〈いせ〉千代の首代り(五色町鮎原)

むかし、五色町鮎原に百姓のむすこで伊勢千代、市木勘七〈いちきかんひち〉という隣りどうしで大の仲よしの二人がおりました。ある日伊勢千代は、ほしいほしいと思っていた鉄砲を買うことができました。勘七に、
「なあ勘ちゃん、今から天神山へキジをうちにいけへんか。さらっぱち(新しい)の鉄砲だ、よううてるぞ。」
「わいらもそんな鉄砲ほしいんじゃが、おとっつあんは、おづきよか(四月八日花まつり)がすんでからじゃというんや。それがすんで田のつえを直したら買うたろうというたんだ。」
「それまで、わしのこの鉄砲で山へ行こうよなあ。」
そんな話をしながら山に登る二人はとても楽しそうでした。先に歩いていた勘七は声をおとして、
「千代ちゃん、いる、いる。あれあのはんの木の先の方に。」
指をさしている勘七の手を見ながら千代は、玉を入れろうとしたはずみに引金に手が―とたん
「ドーン。」
何も言うまもありません。勘七はひめいをあげてたおれました。玉がはいっていないのは勘ちがいで、ゆうべうれしさのあまり玉をこめてあったのでした。五・六間前に勘七はたおれています。キジどころではありません。千代は足がふるえて歩けないのを、はいながら勘七に近づいていきました。
泣く泣く千代は勘七を肩に山をおり勘七の家に行って手をついてあやまりました。
「こらえてくだされ。わしもその場で死のうかと思ったが、それも出来へんし、こうして連れてったが、こらえておくれ。今から代官所〈だいかんしょ〉へ言って出て、どんな重いばつも受けてきます。」
泣きながらようようこれだけ言って代官所へ行きかけました。勘七の親は大分落ちついてきて、
「もしお待ち、お前が自首しても勘七は生きかえるわけではないし、勘七と一の仲よしだった千代ちゃんを罪におとしてわしは平気でいられるかい。まあまあ千代ちゃん、わっしにまかせてくれ。」
そう言った勘七の親は代官所に行き、勘七自身があやまって自分をうったと申し立てたのでそのままにおさまりました。勘七の両親のあたたかい心に千代の両親も大喜びでした。
「なあ千代、もったいないことだ。ありがたいこっちゃ。このご恩を一生忘れるでないぞ。」
「でもとっつあん、わしは勘ちゃんにすまん。やっぱり代官所でほんまのことをいってくる。」
「もうすんだことだ。なあ千代仕事にせいださんかいな。」
どう言っても聞かないので、勘七の親は千代を勘七のお墓の前に連れて来て、その石塔に千代の名をほりました。
「さあこれで、おぬしも死んでしまったのだ。ここにいるおぬしは生れかわった伊勢千代なんだ。人はいろいろあやまちもあるもんだ。これから勘七の分まで働いて村のために役に立つ人になっておくれ。そうしたら勘七もさだめしよろこんでくれるだろう。よいか二度とこんなこと言うなよ。」
あたたかいこの言葉に千代は石塔にすがって思いきり泣きました。正保〈しょうほ〉三年四月七日(今から約三百三十年前)二人の名前をほった石塔は今も静かにまつられています。
鉄砲は魔物〈まもの〉ですね。いじってはまがさしますぞう。

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