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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』淡路編 > 六角井戸と大蛇(緑町倭文 西淡町松帆)

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更新日:2012年6月20日

六角井戸と大蛇(緑町倭文 西淡町松帆)

「おじいちゃん、あの六角井戸のまわり三回まわって『大蛇出ろ』といったら、大きな蛇がによろ、によろと出るって言うのほんま。」えんがわで日なたぼっこをしていたおじいさんに孫がたずねた。
「そうだよ、こわい話だろ、ほんとだよ。大蛇のお話だれにきいたんだ。」
「むかえの七兵衛さんにきいたんだよ。」
「そうか、じゃ、おじいちゃん、大蛇のお話したげるからなあ頼信〈よりのぶ〉。晩になって一人でおべんじょへよういかん、なんて言うたらあかんよ。」おじいさんは、とくいそうに孫に話しはじめた。

「今から五百年も昔(文明三年)、委文〈いぶん〉の西の方、慶野〈けいの〉のあたり、潜州ヶ淵〈くぐすがぶち〉という沼のような池があってな、そこに大きな人を一のみにするような大蛇がすんどったというんじゃ。」
「それがどうしたの。」

孫は目を丸くして聞きかえした。
「その大蛇が、人をのんだり、牛や馬に害をあたえていたということじゃ。おまけに、作物の上を這い〈はい〉まわって、米や麦がとれなくて困った。そのうちに、この間もとなりの作兵衛〈さくべえ〉という人が帰らないとか、おとといも子供が一人行方〈ゆくえ〉不明というように村から消える人がふえはじめた。きっと大蛇のしわざにちがいないということになって、大蛇を退治しようという話がもち上ったのだよ。」
「大蛇って、人をのんだりするの。」
「うん。ちょうど西の方の田んぼにいた人が、田んぼで働いていた人を一のみにしたところを見たというんだ。」
「まあ、こわいよう、それじゃ、どうして大蛇を退治したの。」
「ちょうど、そのころ、船越左衛門定氏〈ふなこしさえもんさだうじ〉という士〈さむらい〉が、今の庄田という部落〈ぶらく〉に住んでいた。今も倭文〈しとおり〉の庄田や湊に船越という姓があるだろう。その士にお願いして大蛇を退治してもらうことになった。船越氏は、代々、弓の名手でさっそく引きうけてくれたのじゃ。」
「よかったなあ、おじいちゃん。」と孫は、かたに息をいれて、おじいさんの顔を見上げている。

おじいさんは、まだまだ、これからが大変といわんばかりにすわりなおして話をつづけた。
「さっそく、庄田八幡宮へ祈願〈きがん〉し、一週間の断食〈だんじき〉をし、心を統一して、大蛇の征伐〈せいばつ〉に行くことになったんじゃ。」
「一人でいったの。」

「いや、家来一人と『芦毛〈あしげ〉』という馬にまたがり、重藤〈しげとう〉(有名な弓の名まえ)の弓に矢をとりたづさえて潜州ヶ淵へやってきた。淵のまわりを三回まわって、大きな声をはり上げ、人をのんだり、牛馬に害をあたえる大蛇、さあ決戦だ、出てこい。というと、その時、水面に三尺くらい(約一メートル)の小蛇〈しょうじゃ〉、水上に浮び、およぎまわりはじめた。定氏、さらに声高らかに、何じゃ、本ものの大蛇顔をみせろ。とどなった。たちまち、空は暗くなり、稲妻〈いなづま〉がなりはじめ、夕立があばれだした。そのとき、淵の中が大きくうねりはじめたかとおもうと、長さ二十尋〈ひろ〉(約三十メートル)以上もある大蛇があらわれ、紅〈べに〉色の口をあけ赤銅〈しゃくどう〉色の舌をひらめかしながら怒りくるって、定氏めがけ、馬もろとも一のみにしようとしておそいかかった。目は鏡のように光り、そうぞうするだけでもこわいかっこうをしてたそうだよ。定氏は、ただちに弓に矢をつがえ、咽〈のど〉をめがけて射たそうじゃ、矢は大蛇の咽深く入ったが、それにもこりず追いかけてきた。命があやういと考えた定氏は、もう一本の矢をひく用意をしたまま馬にまたがり逃げだしたんじゃ。」
「おじいちゃん、士〈さむらい〉だのに逃げたの。」
「そうよ、命が危いと思ったからよ。」
「じゃもう一人の家来はどうなったの。」
「うん、そうそう家来は馬にまたがることができず、馬の尾にしがみついて逃げてきたそうじゃ。」

「家来の人はたすかったの。」
「いいや、その家来が、とちゅうで息が切れ、定氏は、家の近くまできて、馬より下り、家にとびこんだそうじゃ。」
「まあ、ひきょうだなあ。」
「その家の近くに楠の木が茂っていて、大蛇は木の上から定氏の家を見下し、大きな口をあけてどなっているところ、もう一本の矢で家の中の天まどから射たそうじゃ。矢は、大蛇の咽もと深く突きささり、大きな楠の木にもたれかかるようにして息がたえたということじゃ。」
「定氏という士はどうなったの。」
「士〈さむらい〉は、大蛇がたおれるときに毒息〈どくいき〉にかかり、あえない最期〈さいご〉をとげたということじゃ。」
「大蛇退治って大変だったんだね。」孫はいよいよ、興味深げに聞き返した。

「その大蛇はどうなったの。」
「大蛇は今の長田の数川〈すがわ〉(菅生〈すがわ〉)というところにうめたそうじゃ。」
「楠の木はどうしたの。」
「その楠の木で六角にくんだ井戸の囲〈かこい〉をしてあるんだ。」
「その井戸が六角井戸っていうわけか。」
「うんそうじゃ、これで大蛇と六角井戸の関係がわかったかな。」
おじいさんはさらに話をつづけた。
「この大蛇の骨を今も保存している人もいるんだよ。又志知の松本にもこの楠の木で作った井戸があるんだよ。これを楠井戸といってね、今でも西淡町に楠という姓があるだろう。このほか倭文〈ひとおり〉川のほとりに潮清水の囲といって、六角の楠の木の囲があったということだよ。どうじゃ、六角井戸と大蛇の話、こわかったかい。今でもこの井戸のまわりを三回まわると大蛇が出るというんじゃよ。」

孫はおじいさんの話を聞きいっていたが、ねむくなって日なたでうたたねをはじめた。やがて突然「やあ、助けてくれ!」と大きな声を上げた。
きっと六角井戸から大蛇でも出て来た夢を見たのであろう。

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