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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』淡路編 > 三熊山〈みくまやま〉の柴右衛門〈しばえもん〉(洲本市)

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更新日:2012年9月17日

三熊山〈みくまやま〉の柴右衛門〈しばえもん〉(洲本市)

むかし、洲本の三熊山に、柴右衛門という狸〈たぬき〉が住んでいた。長い間、三熊山に住みついていたので、土地の人とも親しくなり、また、その間、三熊山の三つの山を駆〈か〉けめぐったり、海岸に出ては化〈ば〉け術の修練〈しゅうれん〉にはげんだので、淡路の国では柴右衛門の右に出るものがなく、大きなお腹をつき出してはいばっていた。
阿波〈あわ〉(徳島県)と讃岐〈さぬき〉(香川県)にも有名な狸がいたが、この三匹とも、おれの化け術は天下一だとうぬぼれていた。

ある日、阿波の禿〈は〉げ狸が三熊山にやってきて、
「柴右衛門、これからお前を、おれの家来にしてやるから、三熊の山をおれにゆずれ。」
という。
「ばかなことを言うな。お前は、おれさまのすばらしい腕前を知らんのじゃな。ひとつ、そいつを見せてやろうか。」
「おお、よかろう。それならふたりで化け競〈くら〉べをやって、負けた方が家来になろうではないか。」
「そいつはおもしろい。禿〈は〉げ狸、お前からやれ。」
「では、この月の満月の晩に、鳴戸の海にきてくれ、きっとだぞ。」
こう言い残して、禿〈は〉げ狸は帰っていった。

さて、満月の夜、言われたとおり、柴右衛門は、ひとりのこのこと戸崎〈とざき〉の端まで出ていった。後ろの山から月が出、中天〈ちゅうてん〉(空のまん中)へのぼるまで待ったが、何の変ったこともない。
「さては、禿げ狸め、おれ様がこわくなったか、あかんたれめが(だめなやつだ)。」
そうつぶやいて、腰を上げかけた柴右衛門の目に、ふと点々と黒い影がうつった。「あれ、なんだろう。」と、じっと見つめていると、少しずつ大きなってくる。鳴戸の潮にのって、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「魚〈うお〉かな、船かな。」やはり船だった。それも何十隻、何百隻の船がいっぱいに広がって近づいてきた。それらの船が、鳴門の浅瀬を越えるところまで来ると、夜目〈よめ〉にもはっきり見えた、軍船〈ぐんせん〉だった。阿波〈あわ〉の幟〈のぼり〉を押し立て、風にひるがえして、音もなく進んで行く。
「はてな、今頃こんなに軍船が行くとはふしぎなことだ。戦〈いくさ〉でも起るのかな。」
腕組みして考えこんでいる柴右衛門の鼻先を、何百隻かの軍船が通りすぎ、播磨灘〈はりまなだ〉の方へ消えていった。かすみも消えて、ちょうど、後ろの山に、朝日が昇〈のぼ〉るところだった。

「あっはっは、ざまあみろ。どうだ、おれさまの腕前にはまいったか。」
大空から声がした。いっしゆん、柴右衛門はきょとんとした。「そうか、禿〈は〉げ狸のしわざだったのか。」くやしがる柴右衛門の顔を、禿げ狸はとくい気〈げ〉に眺めていた。
「なんや、あの程度か。お前のは、何に化けると一言〈ひとこと〉も言わんと、だまし討ちにするようなやり方か。狸の風上にも置けんやつじゃわい。わしなら、前もってちゃんと言う。あさっての昼、須磨〈すま〉の海岸へ来い。大名行列に化けてやるわ。夜でなくて、昼間でも、わしら化けられるのやから。」
捨てぜりふを残して、柴右衛門は三熊山へと帰ってきた。

その日、阿波から出てきた禿げ狸、須磨の海岸の松の木にのぼって、柴右衛門のお手並〈てな〉み拝見と、待ちかまえた。しばらくすると、松並木〈なみき〉のはるか向こうから、大名行列がしずしずとやってきた。
先払いの侍〈さむらい〉を先頭に、槍〈やり〉、長刀〈なぎなた〉、長柄傘〈ながえがさ〉を高々と揃〈そろ〉え、牽〈ひ〉き馬、供侍〈ともざむらい〉、騎馬〈きば〉の供〈とも〉の者など、りりしく、きらびやかな行列が、いついつまでも続いている。これには、さすがの禿げ狸も、おもわずうなった。
「よう、柴右衛門、でかしたぞ!じつに見事じゃわい。本物そっくりだ、あっぱれ。」
松の木の上から、手をたたいて、声をかぎりにほめそやした。
ところが、これが本物の行列だったからたまらない。先払いの侍たちがばらばらと寄ってきて、
「おっ、狸だ、狸だ。」
「殿様の行列を笑うとは、無礼者〈ぶれいもの〉めがっ。」
と、たちまち禿げ狸は、その場で切り殺されてしまった。

柴右衛門は、気の毒に思ったが後の祭り。禿げ狸の死かばねを、ていねいに葬〈ほうむ〉ってやりました。その足で難波〈なにわ〉(今の大阪)へ行き、一度見たいと思っていた、道頓堀〈どうとんぼり〉の中座〈なかざ〉の芝居見物に行った。根が芝居好きだった柴右衛門、一度見ると病〈や〉みつきになり、金もないのにくふうして、毎日中座へと通いつづけた。
中座の木戸番〈きどばん〉がまず首をかしげた。毎晩、芝居のはねた(終った)あと、木戸銭〈きどせん〉を勘定〈かんじょう〉していると、いつもきまって、一枚の木の葉が入っている。
「まてよ、こいつは不思議。もしかすると、狸が化けて入っているかも知れん。ようし…。」
一計〈いっけい〉(はかりごと)を思いついた木戸番、芝居のはねる頃、木戸の所に犬を連れてきておいた。それとは知らぬ柴右衛門、「ああ、今日もいい芝居じやった。」と、ごきげんで帰りかけると、木戸の所に一番嫌〈きら〉いな犬がいる。においをかがれては大変と、きれいな香〈こう〉(今の香水にあたるもの)のにおいのする娘さんのかげに隠れて、うまく外へのがれ出た。
「くわばら、くわばら、あぶない所だった。こんな所は一刻も早く。」と、柴右衛門は小走りにかけだした。するとそのはずみに、着物のすそから、自慢の大きなしっぽが出てしまった。それを見つけた犬は、
「う、う、わんわん!」
と、たちまち襲〈おそ〉いかかった。こうなると、もういけない。術もやぶれて、狸の正体を現わすと、いちもくさんに逃げだした。
「おい、狸だ、狸だ!」
「狸が逃げとるで、はよ、つかまえや。」
「逃がすな、殺せっ。」
人々は、柴右衛門の後をどっと追いかけます。
恋しい緑の三熊山、まっ青の大浜海岸、そこに住むなつかしい人々の姿が、柴右衛門の頭に浮んだときです。その風景を、がーんという音と共に、いなずまのような光がかき消してしまい、それっきり何もわからずになってしまいました。

柴右衛門の死を悲しんだ洲本の町の人々は、三熊山に墓をたてて、あつくとむらってやりました。今でも、三熊山の上には、柴右衛門をまつった祠〈ほこら〉と共に、お酒の徳利〈とっくり〉をぶらさげた柴右衛門の大きな像が立っていて、得意〈とくい〉の絶頂にあった頃の柴右衛門を、なつかしくしのばせてくれます。

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