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更新日:2012年12月31日

お糸だぬき(津名町長沢)

「人間って一体、たぬき様をどう思っているのであろうか。失敗ばかりするたぬきばかりではないんだよ。たった一ぺんそれも昔のこと。まめだ(小だぬき)が酒を買いに行って酒屋のかどでころんで酒をまいてしまったが、それもいんで(帰って)おかん(母)に一ぺんおこられただけや。あの時はしょぼしょぼ雨が降っていたんで、それで足がすべったんや。それをいつまでも歌にしてうたうとは、人間の方がしゅう念深い、だから人間をきらいじゃというんじゃ。」
お糸は夜なべに、ビービーと糸をつむぎながら昼間うたっていた子どもの歌を思い出していました。
「雨のしょぼしょぼふる晩に・・・ああいやだ、忘れてしまおう。・・・それにしても浜まで行ったおとうさんはおそいな。どうしたんだろう、けがでもなければよいけど。」
そう言いながらお糸はまたもあしたのはた織りの糸をつむいでおりました。
「お糸もどったよ。お糸のすきな魚をたんまり持ってきたぜ。」
「まあうれしい。」
「仮屋の下田の魚屋の持っていた物をばかしてとってきたんだ。」
吉兵衛だぬきはそう言ってたくさんの魚を出しました。お糸も吉兵衛だぬきもこうして、ひやり峠を通る人達を毎日のようにだましては、ごちそうや魚を取っていました。
こうして人をばかすひやりのたぬきを、折りがあればこらしめてやろうと考えていた村長がありました。室津の岡野郷太郎〈おかのごうたろう〉という人です。
ちょうど役場の用事でひやり越えをして生穂〈いくほ〉に行くことがありました。きょうこそ退治〈たいじ〉してやろうと思いながら馬に乗ってひやり峠にさしかかってきました。すると向こうの松の根っこにそれは美しい娘が腹をかかえて顔をしかめかがんでおります。郷太郎村長はお糸だぬきと知ったが、
「おお、これは美しい娘さん、どうしたのじゃ、かげんでもお悪いかの。」
「はい。急におなかが痛くなって困っております。どうぞお助けください。」
「おお、かわいそうに、ちょうどいい、わたしもこれから生穂〈いくほ〉へおりるのです。馬に乗せてあげよう。わたしは足もたっしゃだから歩いていけばいいんだ。さあお乗り。」
だきかかえて馬に乗せた村長さんは、用意していた縄〈なわ〉を出し娘をぐるぐると馬にしばりつけてしまいました。びっくりしたお糸だぬきは、手足をばたつかせながら、
「まあどうするんです。いたい、いたい、はなして、はなして、縄をといて。」
「こらお糸だぬき、ようも人間様をばかし続けたな。きょうこそかんべんならぬ。」
泣きさけぶお糸だぬきのお尻を青松葉でいぶしはじめました。ついに正体をあらわしたお糸だぬきは泣いてあやまるので村長さんも、ついかわいそうになって許してやりました。それから村長さんは、ひやり峠を通る度に、どこからかお糸だぬきの声が聞こえてきます。
「尻焼き郷太郎今通り候、尻焼き郷太郎今通り候。」・・・と。

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