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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』淡路編 > 伊右衛門狸〈いえもんだぬき〉(津名町大町)

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更新日:2012年11月12日

伊右衛門狸〈いえもんだぬき〉(津名町大町)

津名町大町の木曽〈きそ〉の原と言えば、小高い山に囲まれた所で、そこには昔から、いろんな狸が住んでいました。中でも伊右衛門狸と、その妻のおよいの話が有名です。

この夫婦狸〈めおとだぬき〉は、人なつっこく、あいきょう者でしたが、仲間の狸たちが、人間さまを化〈ば〉かした手柄話を、とくいになって語るものですから、伊右衛門も、とうとうやる気になってしまいました。
妻のおよいが止〈と〉めるのも聞かずに、人の良いじいさんを化かしたのがおもしろくて、とうとう止〈や〉められなくなり、月夜の晩には、道の側の木に登っては、通る人を化かして喜んでいました。
村人たちも、伊右衛門の素振〈そぶり〉がおかしいぞと、しだいにあやしむようになりました。
「あの伊右衛門が化かすはずはないて。」
「いや、このあいだ、隣りのばあさんが化かされて、川に落ちこんだのは、あいつの仕業〈しわざ〉やて。」
「そうよ、一軒家のじいさんが、同じ道をぐるぐる回されたとき、後で気がついたら、伊右衛門が道案内しとったちゅう話だ。」
「一度、伊右衛門を、ぎゃふんと言わしたらにゃ。」
こんな相談を聞くにつけ、妻のおよいは心配でなりませんでした。

今夜も月の出〈で〉を待ちかねて、伊右衛門は、いさんで洞穴〈ほらあな〉の我が家〈や〉を出かけ、木の枝に腰かけて、人の通るのを、今やおそしと待ちうけていた。
「さて、今夜はどうしてやろう。久しぶりに娘さんに化けてたぶらかしてやろう。なんせ、男ときたら、娘さんにはからっきし弱いからな。」
ひとり言をつぶやいていると、足音がして、山かげからゆっくり人が近づいてくる。
「あれ、見なれんやつだな。ここの人間なら、杖は手で持って、道の上を突〈つ〉いてくるのに、あいつは二本の杖を腰にさしてやがる。なあに、かまうもんか。」
ちょっと娘さんの身ぶりをしてみて、さて木の上から、ふうわり飛び下りようとしたところ、
「ええいっ!」
腹の底までひびき渡るような大声がしたと思うと、さっきの人が腰にさしていた杖が、まっ白く光りながら、伊右衛門めがけてさっときた。ふうわり飛び下りるはずのものが、どさんと落ちた。たちまち術は破れて、美しい娘さんどころか、あられもない狸の姿。
「あれれ…。」
と思った時に、上からおそろしく強い力で押えつけられて、「お助け。」の声も出ない。たった一つ、自由なしっぽで、押えつけてる手を、こちょこちょとなでると、やっとゆるめてくれた。
「お前が伊右衛門狸だな。」
「へ、へい。さようでございます。」
「おれはな、清重〈きよしげ〉という侍〈さむらい〉さまだ。じつは、村人から、きさまの退治〈たいじ〉を頼まれてやってきた。少しばかりの術が使えるのを鼻にかけて、人間さまを化かそうとするとは許しがたきやつ。きょうは、この清重さまが、十二分に成敗〈せいばい〉してくれるわ。」
「めっそうもない、どうかごかんべんを。」
そこへ、ことの成り行きを心配していた村人たちがやってきた。清重にさんざんやっつけられている伊右衛門を見ると、腹の虫も治まると共に、多少かわいそうにもなってきた。急を知って駈〈か〉けつけてきた妻のおよいも、一緒になって、「今後ぜったいにいたしませんから。」と詫〈わ〉びを言い、庄屋さんの取りなしで、やっと助けてもらいました。

その後、村人たちは、狸に化かされないように、夜道の一人歩きの時には、「清重さま、まかり通る。」と大声で叫びながら歩きました。
伊右衛門は、もう決して人を化かそうなどとは考えませんでしたが、木曽の原のほかの狸たちも、その声を聞くとおそろしくなり、とてもよう化かしたりはしませんでしたとさ。

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