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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』淡路編 > 天が恵んでくれたお金(津名町志筑)

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更新日:2012年12月10日

天が恵んでくれたお金(津名町志筑)

今から約百三十年も前に、志筑〈しずき〉に岩吉という大へん正直な漁師が住んでいました。正直がすぎて少しがん固なくらいかたい人でありました。
きょうも沖へ漁に行こうとおひつに入れた弁当を手に浜へおりてきました。そうして自分の船に乗ろうとすると見なれない風呂しき包みがころがっていました。
「おや何じゃ、おかしな物がころがっとるぞ。」
そろっと中をあけて見ると藩札〈はんさつ〉(阿波藩発行のお金)が五百枚もはいっているではありませんか。
「こりゃまた大金ッ。びっくりするじゃないか。落したものか、忘れたものか知らんが、さぞかしその人は困っているに違いない。一体誰だろう。」
その風呂しき包みをすぐ近くの渡船場〈とせんば〉のおやじの平吉じいさんに渡しました。そうして、
「落した人がすぐ引き返すかもわからへんから渡してやってくれ、おらあ今から沖へ商売に行かにゃならんのでのう。」
と言ったら、平吉じいさんは、
「誰か知らんが、またどうしたと言うんじゃ。これだけの大金をなあ。よしよしたしかに預〈あず〉かっといたるぜ。」
そう言いながら後ろの高いたなの上に置きました。

それかられ約一時〈とき〉半もして、同じ志筑に住む大きい呉服屋の備前屋〈びぜんや〉佐吉が青い顔をして入ってきました。平吉じいさんとはよく碁〈ご〉を打ったりお酒を飲んだりしている人でした。
「なあ平吉さんや。わしも年がいたのか大変なことをしてのう。きょうもきょうとて洲本で呉服もんを仕入れてこうと思ったら、持ってたお金あらへんのじゃ。戻りの船賃〈ふなちん〉もないしさんざんやったわい。」
ぐちをこぼしながら、ひょいとたなの上を見ると自分の風呂しき包みがあるではありませんか。平吉じいさんからわけを聞いた佐吉さんはすぐ岩吉さんをたずねました。
「これ少しですが受け取ってください。お礼のしるしです。」
「いや礼などはいらん。そんな物もらうくらいなら船で見つけた時かくしとくよ。」
「でもおかげで大助かりだ。どうぞ取ってくだされ。」
「いらないといったらいらんよ。あたりまえのことをしただけだよ。」
と言ってどうしても取らないのです。仕方なく佐吉さんは帰っていきました。

それから秋が過ぎ、寒い冬がやってきました。お正月がくるというのに海は、しけ続きで沖へ出られる日はありません。岩吉の家では餅〈もち〉つきどころではありません。どうしたら年の瀬がこせるかと、岩吉は家の前をうろうろしていました。
「ええ、どうすりゃいいんだこのしけ続き。餅つきどころか、白い米も買えない。」
とたんに目の前へ金二朱落ちてきました。ひょいと顔をあげると佐吉さんが立っています。
「あっ、お金を落しましたよ。」
「いや、知らん。わたしは落さないよ。天が正直なあなたにくれたんですよ。」
「天がくれるはずがない。」
「いやそれでも天から落ちてきたのだから。」
「天から落ちるはずがない。」
「天があなたにめぐんでくれたのだから、いただいとくとよいよ。」
そういうことで岩吉は数十年ぶりにごちそうのできるお正月をむかえることができました。白い、おいしいお餅もペッタンコ、ペッタンコとつくことができました。ほんとうにあたたかいお正月をむかえたのでした。

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