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ホーム > 学校・授業の教材 > 郷土の民話 > 『郷土の民話』淡路編 > 小刀をかみきった男(洲本市由良町)

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更新日:2012年6月20日

小刀をかみきった男(洲本市由良町)

洲本市由良町の八幡宮の神主〈かんぬし〉は、代々宮川家の人ですが、江戸時代の終り頃、宮川甚之亟〈じんのじょう〉という人がいました。
その人は、生れつき、耳たぶと歯がとほうもなく強くて、洲本付近の人でも、誰一人それを知らぬ者はいなかった。それでも、みんなはそれを評判〈ひょうばん〉に聞くだけで、ほんとに見たという人は、あまりいなかった。
だからある日、甚之亟が家の前で昼寝をしているのを見つけた近所の人々は、とても喜んだ。
「おい、いっぺんあの評判の耳たぶの固さを試して〈ためして〉みいへんか。」「手でつねったくらいではあかんぞ、いっそ、これでやれ。」とうとうみんなは、大きな釘抜き〈くぎぬき〉を持ち出してきた。大ぜいの人だかりの中で、力自慢の漁師が、釘抜きでぐっとはさんだ。蝿〈はえ〉が止ったほどにも感じないのか、甚之亟はぐうぐう高いびき。とうとうじれったくなった漁師は、耳たぶをはさんだまま、「うーん」とばかりに引っ張ると、なんと甚之亟の耳たぶが少しのびてしまった。

ある日のこと、その甚之亟が用のため難波〈なにわ〉(今の大阪)へ出かけた。そのついでに、日頃から一つ欲しいと思っていた小刀を買おうと思って、店屋に立ち寄った。何しろ、小さな石ころ位、歯でかみわろうというほどの男だから、店先に並んでいる安物の小刀など、なまくらに見えてしかたがない。
「ざっとした造り〈つくり〉やな、もっとましなん、ないのかいな。」店の主人、えらそうに言うやつが来たもんやと思ったが、「はい、はい。」と、店の奥から出してきて見せると、ぞんざいなことばで、「これもあかん、こんなんもあかん。」数十本の小刀がみな「あかん。」という。「ええい、こしゃくなやつ。」とは思ったが、名刀が無いと言われるのも店の恥と、とっておきの刀を持ち出した。
「お客さん、お金持ってはりまっか。これなんか、一振り〈ひとふり〉何両〈りょう〉(何十万円)とするんだっせ。」
「ふうん、これがここの店の一番ええ刀か。こんななまくら、歯でかみ切れるわ。」「お客さん、人をなぶるのもいいかげんにしなはれ。お店にとって、どなたも大事なお客さんやと思えばこそ、店中のものみんな見せてるのんに、刀を歯でかみきるとは、よう言うわ。ほんなら、やってもらいまひょ。見事、この刀を歯でかみ折ったら、店のもの、全部あげまっさ。さあ、はよやってもらいまひょ。」主人は、頭からゆげを出して、かんかんになっておこった。甚之亟はすましたもの。
「やれ、いうんなら、やったるわ。ほやけんど、だれぞ証人〈しょうにん〉がおらんと、あほらしてやれんわ。」ますます頭にきた店の主人は、はだしで隣の老人を呼びに走って、連れてすぐ帰ってきた。


二人を前にした甚之亟、手もとにあった小刀を取ると、ふっとかみ切った。主人はびっくりしてしまって、まっ青になり、ひらあやまりにあやまった。横から老人も必死になってわび、「どうか、助けてあげてください。」と、すがるようにして言う。甚之亟は、「証人までつけたかけやさかいに、店の品物はみんなわしがもらいます。けれど、この小刀一つだけは子供のおもちゃに貰って〈もらって〉、あとは、改めてわしの方からさしあげますわ。」
とにっこりして言った。
店の主人の喜んだことはいうまでもない。隣の老人と二人して、甚之亟の姿が遠くに消えてしまうまで、何度も何度も頭を下げておりました。

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