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更新日:2012年10月15日

首なし地蔵(一宮町遠田)

「おとっちゃん、いざなぎさんのお祭りやけんどわっしも連れていてか。」
「お前はおっかあといっしょに来いな。おとっちゃんはお宮はんで、ごきとうをして米のよんなかがよいようにみんなとおがまにゃいかんのでな。」
「よっしゃ、そないしょうか。」
そばで吾作のおっかあは、
「なあおとっちゃん。あとであんまりお酒飲まんときなあ。いつでもよばれすぎて道のはたでねたりするんだから、矢折りの背やことでねとったら狸にばかされるぞ。気いつけてや。」
「分かっとる、分かっとる。じゃ先に行っとるよ。」
おとうさんはそう言って出かけて行きました。吾作の家は五人組の組頭〈くみがしら〉です。組頭になると刀をさすことを許されておりました。
遠田〈とおだ〉から多賀〈たが〉まで今のように自家用車もカブもない江戸時代のことです。おとうさんはテクテクと歩いて矢折りごえで行きました。

そのあとへ隣りの孫作がきました。孫作は吾作と同じ年で正福寺の寺小屋へ行っていたのです。
「吾作さん、きょうはお寺のお師匠さんが農業往来〈おうらい〉(寺小屋の教科書)の読み方を教えてやろうと言って来たのでわしは今から行こうと思うんじゃ。いっしょに行けへんか。お祭りに行くんけ?」
「そうやな、おっかあ、どうしょう。」
「せっかく教えてくれるんだから、お寺へ行っといで。」
「そないするワ、孫作待っとってんか。すぐ用意するから。」
二人は仲よく正福寺へ出かけて行きました。やがて日がくれ吾作は帰ってきましたが、おとうさんはまだ帰ってきません。八時になり、十時になり、…まだおとうさんは帰ってきません。ランプの下でつくろい物をしていたおかあさんが、隣りで今日の復習をしていた吾作に、
「なあ吾作、あんまりおとっちゃんが遅いので心配になってきた。またお酒によってどこか道ばたでねとるんとちがうかしら。すまんけどちょっと見に行ってくれへんか。」
「うん、いってったる。あんまり遅いな。また飲みすぎたのか分からへん。」
おかあさんのつけてくれたちょうちんを持って萩〈はぎ〉の方へおりていきました。矢折〈やお〉りの背〈せ〉へきかかると、むこうから歌をうたいながら、ほろよいきげんでおとうさんが、帰ってきています。
「あっおとっちゃん。むかえに来たよ。おそかったなあ、みんな心配してたんだよ。」
「な、なに、おとっちゃんじゃと。何をいうこらッ矢折りの狸ッ。」
「ちがうよ。わし吾作だよ。」
「何、吾作だと、だまかすな、こら。いくらよっていたとてばかされないぞう。」
「ちがうったら、わしだ、吾作だ。」
「こらッ、きょうというきょうは、矢折りの狸を退治してやる。これまでおおぜいの人をだまかした罰〈ばつ〉に、こんやは退治してやるッ。」
「おとっちゃん。わし吾作だよう。」
「さあこいッ。」
「刀をぬいたりして危いッ。」
「こらッ。こいッ。」
逃げまわる吾作を追いまわし刀で切りつけたからたまりません。とうとう吾作はかわいそうに首をはねられてしまいました。
「ハハハハハ、矢折りの狸め、とうとうまいったか。これでみんなも大助かりだ、今にしっぽを出すじゃろう。ハハハハ。」
おとうさんは足どりも軽く帰って行きました。
「あ、今帰ったぞ。え、え、何、吾作が迎えに行ったと。さては狸でなかったかッ。」
二人は矢折りの背へかけつけて見ました。吾作は首をはねられ倒れています。二人は泣く泣く正福寺へ手あつくほうむりました。地蔵さんをたてましたが、どうしたわけか首がすぐ落ちてしまいます。
首のないまま今も正福寺に静かにまつられています。
二百年もたっているいま、首をつけてあげるとひょっとするとひっつくかも知れませんが…。

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