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更新日:2013年2月11日
江戸にまだ将軍さんがいらっしゃったころのことです。田谷〈たや〉村の若者たちは、冬の間、丹波〈たんば〉の奥へ木〈こ〉びきにやとわれて行っていました。十二月から三月にかけて、四か月も山奥に小屋〈こや〉をかけて大ぜいの若者たちが暮らしていたのですから、いろいろのふしぎなことがおこったそうです。このお話もそのうちのひとつ。
木びきたちの小屋の外で、夜になるときまって「ホー、ホー。」という呼び声がきこえてきました。ふくろうの声かと思うとそうでもなく、もっとずっしりと重く背中が寒くなるような声です。もしだれかがその声のまねをして「ホー、ホー。」とやると、その者は何かにつかれたように戸をあけて外へ出て行き、そのまま帰ってこず、まるで神かくしに会ったように行方〈ゆくえ〉不明になってしまいました。それも、外の声に応じて「ホー、ホー。」といい続けていると何もおこらず、人間の方が疲〈つか〉れていいやめると、夢遊病者〈むゆうびょうしゃ〉のように外へつれ出されたのです。年寄りたちの話によると、それは「グニさん」の声なのだそうです。グニさんの姿を見た者はまだだれもいません。グニさんは自尊心〈じそんしん〉のつよいもので、自分のまねをするやつには大いに腹をたててさらって行くということでした。
「ひとつ、みんなでグニさんをからかってやろうやないか。」ある晩、若者たちはたいくつしのぎに相談しました。よび声の順番をきめて待ちかまえていますと、いつものように森の奥から「ホー、ホー。」ときこえてきました。さっそく、「ホー、ホー。」と呼びかけますと、その声はだんだん小屋に近づいてきて、とうとう屋根の上できこえるようになりました。はじめはからかうつもりだったものの、さすがにこわくなってきましたが、やめるわけにはいきません。小屋の中では七人の若者が交〈こう〉たいで、必死に「ホー、ホー。」と続け、夜あけになりました。東の空がしらみはじめるにつれて、外の声がだんだんかすれてきて、しまいにパッタリきこえなくなりました。
すっかり夜があけたので、外へ出てみますと、小屋のまわりにおびただしい血が流れ、その血が山の奥へと続いていました。それで、みんなそろって血のあとをたどって行きますと、山奥のある大木のところでとぎれ、そこに、体は人間でくちばしがあり、手に羽根のはえた怪物がたおれていたそうです。それがグニさんの正体だったのです。
その年からのち、もう「ホー、ホー。」の声はきこえなくなりました。
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