うらとわし(佐用郡)
ある日、村の寄り合いの席上で、庄屋どんがみんなの者にいうて聞かせました。
「おい、みんなよう聞けよ、みんなは自分のことをウラ、ウラとばかりいうし、ちっともワシといおうとせんのじゃ、女子までまねして、ウラ、ウラいうておるが、よそ村からきた人が聞いて、いかさまここは山家〈やまが〉じゃわいと軽蔑〈けいべつ〉するのも無理ではないのじゃ。そこでワシが思うには、これからは皆生れかわったような気になって“ワシ”ということにきめてくれ。」
「いかさま、庄屋どんのいわっしゃるとおりじゃ。」
「ウラというのをやめて、ワシということにしよう。」
しばらくの間は申し合わせも守られているように見えましたが、昔からの長い間しみこんだいいならわしは、なかなか改めにくいものとみえて、いつのまにかみんなもとのウラ、ウラというようになりました。
ところがその中の一人の男が、つくづくなげいていうことに、「庄屋どんから、あれほどいうて聞かしてもろうて、みんなワシ、ワシというておったのに、もうもとへもどってしもうたわい。これではどうにもなりゃせん、よう考えてみりゃ、初めから申し合せのとおりワシ、ワシといっておるのは、庄屋どんと
ウラだけじゃがな。」