柱の穴と牛の尻を間違〈まちが〉えた婿〈むこ〉(相生市)
むかし、むかし、ある村に、ちと足〈た〉らぬ男があって嫁〈よめ〉をもらいました。
嫁の里がこんど家を新築し、その祝いの披露〈ひろう〉に招待されていました。
行く前に父親が、祝辞〈しゅくじ〉のしかたを教えました。
「先方に行ったら、まず『新しい、美しい、結構〈けっこう〉な家が建ちました。おめでとうございます。どうぞ、おくたぶれのでませんように、お体〈からだ〉に気をつけてください。』といいなさい。
また、もし、柱にふし穴があったら、『これは大工さんの仕〈し〉そこないでしょう。木のつめをしたら直〈なお〉ります。』といいなさい。」と…。
男は、先方へ行き、父親に教えてもらった通りのあいさつをしました。
嫁〈よめ〉の親は「人のよい男だと聞いていたが、このくらいのあいさつができれば一人前だ。」と大へんよろこびました。
「この間、牛を買ったのだが見てくれないか。」と、嫁の親は男をすっかり信用し、牛舎から牛を追いだしてきました。
男は「これはよい牛だ。」といい、尻〈しり〉の穴を見て「この穴は大工さんが仕〈し〉そこなったのでしょう。木をつめたら直〈なお〉りましょう。」といとも真面目〈まじめ〉くさった顔でいったそうです。