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更新日:2012年10月15日

金山の穴(一宮町井手)

多賀、妙京寺前、県道ぞいに大町へぬける旧道がある。その道を百メートル井手の方へいくと田のこせにほら穴があります。中に一ぱいきれいな水がわき出ています。戦時中はこの近くにか穴う乳牛の乳をここでひやしていたそうな。その穴が黄金を堀り出した穴だといわれています。江戸時代の終わりごろのことです。

近くに住むのこぎりうえもんが息子の〆〈しめ〉蔵に
「なあ〆蔵、この金山の穴を江戸時代の始めに、なんでもあの金〈きん〉がうずまっていると言って、ほったんだがまだあると思うんじゃ。」
「おとっつあん、いっぺん村の若いしゅうみんなと調べて見ろか。金〈きん〉があってみい、えらいこっちゃぞ。」
「そうしてみい、それから二百年もたっとるもん。」
そういうことで村の若い衆にはかると、
「ほんまじゃ、ほんまじゃ。うちのじいさんもそないいうとったぞ。」
「よし思い立ったが吉日と昔から言うだろ。さっそくあしたやらんかよ。」
「みんなで中へ入るんだったら二十四・五人もおるからよく分かるぞ。」
そう言ってみんなが家へ帰って行きました。しかしその翌日、みんなはおじけて集まってこなかったのです。二百年前に堀ったといいますが昔のことは分からず心配だったのでした。
「なあ〆蔵、誰もきいへんなあ。せっかく言いかけたんだ、わしら二人でやってみるか。」
「そうや、おとっつあん。わしも入るぜ。今調べとかんと分からへんからなあ。」
すぐ二人は近くの伊弉諾〈いざなぎ〉さんにおまいりをして、ごきとうしてもらいお札〈ふだ〉をいただいてきました。それを聞いた村の人はひとり、ふたりと大勢集まってきました。みんなにおいとまごいをした二人はお札をしっかりと腰にくくり、体を縄でしばり中へ入っていきました。

いけどもいけども、ブクブクした足のねりこむ穴です。ローソクの火におどろいたこうもりが時々バタバタととびかいます。ところにより胸のあたりまで水につかってしまいます。
「なあ〆蔵、何もないなあ。昔の人は金が出ていたから金山の穴と言っていたが、単なる伝説であったのだなあ。」
「ほんまじゃ。どんな穴かと思っとったが、それにしても用水路だったら穴がつきぬけてあるのに、ゆきどまりで、ちょうど九十七ひろ(一ひろは約一・五メートル)おかしい穴だ。」
「昔の人は何を考えてこんだけ堀ったんだろうか。」
ボタボタ頭の上から落ちてくる水に体中びっしょぬれになった二人は、ようよう穴から出てきました。
外でいくらたっても出てこないのでみんなはとても心配していました。元気に出てきた二人を見てみんなはホッとしました。でも外に出たとたん急にのこぎりうえもんは、
「あっ頭がいたいッ、ガンガンする。こりゃいかん頭がわれそうだ。」
「あっおとっつあんわしも耳がガンガンなるぞ。いたいッ、いたいッ。」
はちまきをしっかりしめたがどうしてもなおらないのです。中の一番年いった人が、
「これはいけない、中へ入ったからいかんかったのだ。この水をくんでいんで風呂をたいてはいったらなおるかも知れん。そうせんか。」
さっそく穴の水を、にないにくんで帰り風呂にたいて十分にぬくもりました。体がホカホカぬくもってくると頭なりがなおってきました。耳なりもとまりました。

このことを伝え聞いた人は、自分の悪い病気をなおしたいと思いこの金山の穴の水を汲みにくるようになりました。ずい分遠い所からもたくさんこの水を汲みにくるようになりました。この穴の前の小さい田のそばに茶店もでき、とてもにぎわいましたが、まもなくすたれてしまいました。
へんてつもない穴じゃが、とてもにぎわっていたのじゃと、縁側で腰をおろして話すおじいさんのきせるの先から煙は高く高くのぼって消えていきます。

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