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更新日:2012年6月1日
川辺音次〈かわべおとじ〉は働きものだけでなく、めずらしいほど信心〈しんじん〉深い若者でした。
いつも、あぜ道に生まれたばかりの赤ちゃんを遊ばせながら、夫婦そろって畑仕事をしていました。ところが、その日は、赤ちゃんを家に寝かせ、夫婦だけで裏山にのぼってたき木とりをしていました。
静かな山の中で、小鳥の鳴き声をききながら二人は夢中〈むちゅう〉でたき木を集めていたのです。ふと顔をあげて、小さくみえている我が家の方を見ました。これはどうしたことでしょう。我が家からもうもう煙が出ているではありませんか。ふたりはころげ落ちるように山をくだり、わが身の危険も忘れ、煙とほのおで燃えさかっている家の中へとびこみました。むりもありません。家には、かけがえのないだいじな赤ちゃんが寝かせてあったのですから…
ものすごいほのおと、煙の中に旅姿のお坊さんがスックと立っているではありませんか。しかも、そのむねには赤ちゃんをだき、降りかかる火の粉を一生けんめいに払っています。赤ちゃんは、まっ青な顔をして飛びこんできた両親をみてにこにこ笑っています。
赤ちゃんを受取って外へ逃げ、からだをしらべましたが、かすりきずひとつありません。あらためてお礼をいおうと、お坊さんをさがしましたが、どこに行かれたのかあたりに姿がみえません。もしや、まだ家の中ではと、夫婦は火の中にとって返し、さがしましたがやはりみつかりません。おちつくにつれ、音次はわが子の命の恩人〈おんじん〉の顔にみおぼえがあるような気がしてきました。ひょっとしたら…夫婦は、日ごろ信心している木の元地蔵さんにいってみました。やっぱりそうでした。お地蔵さんのきもののすそが、焼けていました。
それから、この木の元地蔵は“火伏せ〈ひぶせ〉地蔵〈じぞう〉”とも呼ばれるようになりました。
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