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ホーム > 学校・授業の教材 > 『郷土の民話』中播編 > およし狐〈ぎつね〉(姫路市坂田町)

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更新日:2013年1月28日

およし狐〈ぎつね〉(姫路市坂田町)

およし狐〈ぎつね〉は、今の坂田町善導寺〈ぜんどうじ〉に住んでいた白狐で、六百年も千年も生きていて、美女に化けて人間と同じ働きをしたと伝えられ、いろいろな物語を生んでいます。

むかし、かりゅうどが、鉄砲〈てっぽう〉をうちに山に出かけてかえり道、一匹の狐〈きつね〉が大蛇〈だいじゃ〉にとらえられて、しめころされそうになっているのを見かけました。かりゅうどは、かわいそうに思って大蛇をうちころして狐を助けてやりました。

よいことをしてやったと思い思い帰る途中〈とちゅう〉、ある林にさしかかると、いきなり行く手にひとりの女の人が、首をつろうとして木にぶら下っているのを見かけました。かりゅうどはびっくりして「あっ。」と声をたてると、女もびっくりして「どしん。」としりもちをつきました。
女は気絶しているようすなので、かりゅうどは泉〈いずみ〉から水をくんできて、こしに下げている持薬〈じやく〉を口移しにして水をふっかけ、介抱〈かいほう〉すると気がつきました。
「さて、さて、どうして死のうとするのじゃ、気をたしかにしなさい。」というと、
「はい、どうもありがとうございます。わたしは、どうせ死ななければならない身の上、どうか見のがしてください。」と、女はさめざめと泣き伏しました。
「さて、強情〈ごうじょう〉な人だ。わたしはこわいものではない。わたしがきあわせた以上、どうしても見のがすことができない。どのようなことがあろうとも、命をすてるということがあるものか。わたしが間にはいったからには、死ななくてもよいようにしてあげよう。とにかくいっしょにきなさい。」
「わたしは、父もなくなり、継母〈ままはは〉と義理の妹と住んでいますが、いうにいえない深いわけがあり、死ななければなりません。わたしにとって、死ぬことが一番気らくなことなのです。どうか死なせてください。」
「よくよくのことでしょう。今家に帰れないのなら、わたしの家にきて、そのうち機会を見て帰るのがよいでしょう。」
と、かりゅうどが心から止めたので、その女もその気になり、
「・・・それなら・・・よろしく。」といって、はずかしそうに、かりゅうどに連れられて家にやってきました。

一日、二日もするうちに、お互いに心もわかり、かりゅうども便利なので、つい長く家にとどめることになりました。
ところが、不思議なことに、その女がきてからは、かりゅうどが山にいこうとすると、女が、
「きょうは東の山がよろしい。うさぎがいるでしょう。」とか「きょうは西の山がよろしい。鹿がいるでしょう。」とか教えてくれるので、かりゅうどがそのとおりにすると、いつもたくさんの獲物〈えもの〉がとれました。
かりゅうどは大喜びで、
「この女には占〈うらな〉い術〈じゅつ〉があるのだろう。」と思っていっそうたいせつにしました。そして、たくさんの獲物〈えもの〉を毎日とり、村に売りに出かけ大金持ちになりました。

そのうち、かりゅうどはその女がすっかり気にいり、できれば自分の妻にしたいと考えましたが、一生けんめい仕事をしている女の姿を見ると、いい出すことができません。そこで友だちにたのんで、女の気持ちを聞いてもらいました。女は、はたと困ったようす「二、三日待ってほしい。」と返事しましたが、二日たっても三日たっても返事がありません。催促〈さいそく〉すると女は悲しそうな顔をして、
「あの人のためにならないから、あきらめてほしい。」といいますが、かりゅうどはあきらめず熱心にたのみました。女はますます悲しそうな顔になり「それでは・・・。」といってしぶしぶ承知しました。

金持ちになったかりゅうどは、結婚式〈けっこんしき〉を盛大〈せいだい〉にしようと思っていると、女が、
「この式の費用〈ひよう〉はすべてわたしにさせてください。」というので、おかしいなとは思いながら、まかせておくと、よく日の朝、つぎつぎにたくさんの嫁入〈よめい〉りの道具が多くの人たちによって運ばれ、山のような料理〈りょうり〉が運びこまれてきました。
ますます、かりゅうどは不思議に思って女にたずねると、女はだまって淋しそうな顔をするばかりです。
そのうち式もはじまり、花嫁〈はなよめ〉は綿帽子〈わたぼうし〉を深くかぶって式にでました。
よく朝、ふと女の顔を見て、かりゅうどはとびあがらんばかりにびっくりしました。きのうまでの女とはまったく違った女の顔だったのです。
「あなたは誰です。どうしてここへやってきたのです。」とたずねると、
女はびっくりしたように、あたりを見わたして、
「えっ・・・どうしてだか・・・さっぱりわかりません・・・。」
かりゅうどはさらに声を大きくして、
「あなたは、どこの誰ですか。」とたずねました。
「わたしは、となり村の庄屋〈しょうや〉の娘です。」
「えっ・・・あの名高い・・・。」かりゅうどはおどろいて、これは大へんなことをしてしまったと思いました。ようやく気をとりなおして、
「あなたの知っていることを聞かせてください。」
「はい、申し上げましょう。実は、わたしは、親がきめた気に入らない人のところへ嫁に行くことになり、行く末を心配して泣いておりました。ところが朝がた、どこの方か知りませんが、部屋の窓の下にきて申されますには、『気にいらない人のところに嫁入りする必要はありません。わたしが救ってあげましょう。わたしの指図〈さしず〉どおりにしなさい。そうすればあなたは幸せになります。心配せずわたしにまかせなさい。』といわれました。その女がりっぱで、一目見て信用できるような人だったので、身の上話をしておまかせすることにし、その方の指図にしたがうことにしたのです。そして、夜がきて気がつくとここに来ていたのです。」
かりゅうどは、聞けば聞くほど不思議な話なので、わけがわからずぼんやりしていました。すると窓の外に何やら動く音がきこえ、うす暗い窓にぼんやりと一匹の大きな狐〈きつね〉の影がうつっているではありませんか。そして、その影は部屋の中に向ってピョコンと頭をさげたではありませんか。
「あっ!およし狐だ。」
「あっ、これでようすがわかりました。」とかりゅうどがうなづいたとき狐の姿は、昨日〈きのう〉までの女の姿にかわりました。
「やっぱりそうだったのか。」とかりゅうどがいうと、
花嫁も、
「あっ、あの方です。」「わたしを救ってやろうといわれた方は。」とさけびました。
その女はそれを聞くと、にっこり笑って、もとの狐の姿にかわりいずこともなく消えていきました。
その後、花嫁の両親の許〈ゆる〉しもえて、かりゅうど夫婦は豊かな幸せな日日を送ったということです。

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