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ホーム > 学校・授業の教材 > 『郷土の民話』中播編 > 大猿〈おおざる〉消えて古狸〈ふるだぬき〉(香寺町)

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更新日:2013年1月28日

大猿〈おおざる〉消えて古狸〈ふるだぬき〉(香寺町)

むかし、むかしの話じゃ・・・と、爺〈じい〉さんがはなしはじめました。
寒い日じゃった。いろり・・・を囲んで、爺さんは孫たちにはなします。
「この村の氏神〈うじがみ〉さん、つまり、むかしは鎮守〈ちんじゅ〉さんといいよったが、その氏神さんのお祭りは、とっても、とっても、にぎやかで、となり近所からも人がようけ、おまいりしたもんよ。」
これが爺さんの話のきり出しでした。
「その日は、芸人〈げいにん〉がきておどりをする、猿〈さる〉まわしがきて猿に芸をさせる。その猿が、高下駄〈たかげた〉はいてつな渡りをするところなど、ほんに、よそではみられぬことじゃった。ところがよ、そんなよろこびや、にぎわいのかげに、とっても、とっても、かなしいことがあったのじゃよ。」
「へえ、とっても、とってもかなしいことって?」と、孫たちが爺さんの顔をみました。
「それがその、年にいちどの村の鎮守さまのお祭に、人身御供〈ひとみごく〉が出されたんじゃ。人身御供いうたておまえらにはわからんじゃろう。人身御供というのは、生きた人間を、そのまま、木の箱に入れてお供えするこっちゃ。そんなこと、だれが決めたかって・・・かい?そりゃ爺さんはしらん。
むかしの、むかしの、ずっとむかしからのならわし・・・・で、それをやらなかったら、わしらの村はひどい病気がはやったり、米がとれなんだり、大水が出て家が流されたりしたというこっちゃ・・・。
その人身御供に出されるのは、村の端から順番になっていて、いちど木の箱に入れて供えられたら二度と戻ってこやせん、ということじゃった。
その順番が、その年、神崎郡沢村〈かんざきぐんさわむら〉・・・つまり鎮守さまのある村の、百姓の堤佐助〈つつみさすけ〉のひとり娘にまわってきたというのじゃ。ひとり娘の、村一番のきりょうよしということじゃった。佐助の家のかなしみは、いま、お前たちがきいてもわかるじゃろう。蝶〈ちょう〉よ花よとそだてて、これから、ええ、婿〈むこ〉さんをもらおうという矢先じゃないか・・・。
ところが、ちょうどそのとき、伊勢〈いせ〉の方から佐助の家へ、たずねてきたさむらいがあったんだ。このことを知ってかどうかはわからん。芝左太夫〈しばさたゆう〉というさむらいで、毛並〈けなみ〉のつやつやした、やさしいがワンと吠〈ほ〉えたら村中〈むらじゅう〉の人がびっくらするくらい、ひびきのあるつよい犬を連れておったのじゃ。
芝左太夫は、その晩、百姓の佐助夫婦〈みょうと〉から人身御供〈ひとみごく〉の話をきいて、なんちゅう、むごいことをすることよ、と思った。人のよろこびのかげに、こんな、かなしみがあっていいものか、とも思った。
『よし、それなら、ひとり娘を出す前に、わしがいっぺん、鎮守さまに、おまいりしてこようわい。』と、娘のかわりに、力のつよいワン公・・・つまり愛犬をつれて鎮守さまへ出かけた。
すると、何ちゅうこった。
道の途中で、とつぜん、今まで見たこともない大きな猿〈さる〉があらわれて、左太夫の参るのをじゃましようとしたのじゃ。ところが、左太夫の連れた愛犬のワン公が、さっととび出していった。さあ、大猿とワン公のはげしいかみあいになった・・・。さてさて、どっちが勝ったかね?・・・。」と、爺さんが孫たちにききました。
「そりゃワン公よ・・・。」と孫たちがいいますと、
「そうじゃ、ワン公が大猿ののど・・にかみついて、息のをとめてしまおうとしたら、なんとその大猿が、ぱあっ・・・と一匹の古狸〈ふるだぬき〉にかわって山の上へ、にげてしまったということじゃ。」ここで爺さんの話は終わりました。

それから後、この村では鎮守さまのお祭りに、人身御供を出すならわしはなくなりました。氏神さまも伊勢の神さまを祭るようになり、沢村の名をやめて、犬飼〈いぬかい〉村とあらため村中の人たちが犬を大事に大事にしました。

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